「ソフトガール現象」は社会の後退ではない

 昨年8月に発表された年次若者調査「Ungdomsbarometern」では、7歳から14歳の少女の14%が「ソフトガール」であると自認しており、若い女性の間で一種の憧れとなっていることが示唆されている。

 これは、社会保障制度の充実と無関係ではないだろう。スウェーデンの手厚い失業保険や医療・育児支援は、若者たちがリスクを取ってキャリアの方向転換をしたり、一時的に労働時間を減らしたりすることを可能にしている。

 しかし、「社会的責任からの逃避ではないか」「納税者の負担が増すのではないか」といった批判の声もある。

 スウェーデン・フェミニスト党元党首のグドルン・シューマンは、女性がパートナーに頼って生活することは危険であり、「女性が再び家庭に閉じこもることを推奨している」「女性の社会進出を阻害する」、また若いスウェーデン人に対して「労働権や経済的自立のための女性の歴史的な闘いについての認識を欠いている」と指摘。ジェンダー平等の後退であると発言している。

 だが、この現象を単なる「後退」と捉えるべきではないだろう。

 というのも「ソフトガール」の多くは、仕事漬けになることが性別を問わず、心身に不調をもたらすという認識に基づき、自身の健康と幸福を優先する生き方を選択しているからだ。

 これは、現代社会の過度な競争やストレスに警鐘を鳴らし、真の意味でのジェンダー平等、すなわち性別に関わらず誰もが自分らしい生き方を選択できる社会の実現に向けた新たな試みとも言えるだろう。

欧米のZ世代はキャリア競争の激化に危機感

 スウェーデンで顕著な「ソフトガール現象」は、SNSを通じて国境を越え、ほかの先進国へ静かに波及しつつあるようだ。

SNSで広がった「ソフトガール現象」は日本にも少しずつ影響を与えつつある(写真はイメージ、写真:maruco/イメージマート)

 TikTokをはじめとするSNSは、人々の価値観やライフスタイルの伝播を加速させる。「ソフトガール現象」も例外ではなく、特に欧米のZ世代は、キャリア競争の激化や社会不安の中で危機感を持ち、より持続可能で幸福な生き方を模索している。「ソフトガール」の価値観はその模索に応えるものとして今、急速に拡散しているのだ。

 日本は、長らく勤勉を美徳とし、過労死が社会問題となるほど労働時間の長い国として知られてきた。しかし、少子高齢化による労働人口の減少、若者の価値観の多様化、グローバル競争の激化という課題に直面する中で、「ソフトガール現象」は日本企業にも多くの示唆を与えるだろう。

 若い世代は、単に給与だけでなく、働きがいや社会貢献、そして自身の成長やウェルビーイングを重視する傾向が強い。企業は、従業員が仕事を通じて自己実現し、心身ともに充実した状態を保てるような環境を提供することで、エンゲージメントを高めることができるはずだ。

 企業は、「ソフトガール」的な価値観を持つ人材だけでなく、多様な働き方や価値観を持つ人材を受け入れ、それぞれの特性を活かす組織作りが不可欠となる。柔軟な勤務形態、キャリアパスの多様化、そして心理的安全性の高い職場環境の整備は、優秀な人材を獲得し、定着させるための競争力となるに違いない。