スウェーデンでは今、国際養子縁組の闇が明るみになり、社会が揺れている(写真はイメージ、写真:ZUMA Press/アフロ)

家族を求める子供と、子供を求める大人。互いの純粋な願いを結ぶはずの国際養子縁組。それはこれまで、国境を越えた愛の物語として語られてきた。しかし、その輝かしい物語の陰に、子供たちを商品のように扱い、人生を歪める深い闇が広がっているとしたら、どうだろうか。福祉国家として知られるスウェーデンで、国際養子縁組を巡る衝撃的な過去の実態が明らかになり、国全体を揺るがす大論争へ発展している。スウェーデンの現地の報道内容を手がかりに、国際養子縁組の知られざる実態に迫った。

国際養子縁組の理想と現実

「子供の最善の利益のために」——。国際養子縁組の理念は崇高だ。戦争や貧困、親の死や育児放棄など、様々な理由で実の親と暮らせなくなった子供に、愛情あふれる恒久的な家庭を提供する。養親となる人々もまた、子供を愛し、育てたいと強く願っている。両者の願いが結びつき、多くの幸福な家族が誕生してきた。

 しかし実際には、こうした美しい物語の裏側に、厳しい現実が横たわっている。

 多くの場合、養子に送り出される子供は、経済的に困難な状況にある国や社会的混乱を抱える地域からやってくる。一方で、養子を希望する親の多くは、先進国に暮らしている。この「送り出し国」と「受け入れ国」の間に存在する経済的・社会的な格差が、皮肉にも、子供たちを「供給源」と見なすような構造を生み出す土壌となり得るのだ。

「子供を救いたい」「子供を持ちたい」という純粋な願いが、時に子供の人権を軽視し、利益を優先する組織や個人の思惑によって利用され、歪められてしまうとしたら——。

 そこに、国際養子縁組が抱える根源的な問題の萌芽がある。

現役首相がグレーな国際養子縁組を加速させた?

 長年、国際養子縁組を積極的に受け入れてきたスウェーデン。しかし、その輝かしい歴史のイメージは、近年、根底から覆されようとしている。

 スウェーデンの大手日刊紙ダーゲンス・ニュヘテル(DN)は、「どんな犠牲を払っても子供を(Barn till varje pris)」と題した調査報道で、衝撃的な実態を次々と暴き出した。

 報道された中の一人であり、養子に出されたフレドリック・ニーバリさんのケースは、多くの人々に衝撃を与えた。彼は2018年に実の家族と再会し、生後4カ月で児童養護施設から「盗まれ」、スウェーデンに養子に出されたという事実を知る。「自分が親に見捨てられたという悲しみは、盗まれたという怒りに変わった」と彼は語る。

 同様の悲劇が、チリなどのほかの国々でも、組織的に行われていたことが明らかになった。小さな子供たちが実の親から“誘拐”され、書類が偽造され、遠い異国へ送られる。これはもはや「養子縁組」などではない。

 この問題に鋭く切り込んでいるのが、ジャーナリストのアニー・ロイテルスキョルド(Annie Reuterskiöld)氏だ。彼女の論説は、特に現職のウルフ・クリステション首相の過去の役割に焦点を当て、スウェーデン社会に重い問いを投げかけている。

 クリステション首相は2000年代初頭、スウェーデンで最大級の養子縁組斡旋機関の一つである「Adoptionscentrum(アドプション・センター)」の会長を務めていた。奇しくもこの時期、中国からの養子縁組件数は倍増している。

 ロイテルスキョルド氏によれば、同センターの当時の広報担当者は、クリステション氏が会長だったころ、中国で子供たちが誘拐され、子供のいない夫婦に“売られている”という情報を得ていたと証言している。そして、斡旋機関アドプション・センター自体が、書類偽造や人身売買が行われていたとされる中国の少なくとも11の児童養護施設から養子を斡旋していたというのだ。

 さらに問題なのは、2003年にスウェーデン政府の調査委員会が国際養子縁組の規制強化を提言した際、当時アドプション・センター会長だったクリステション氏がこれに反対したという事実だ。

 彼は新聞の意見記事などで「倫理的に難しい問題に取り組む際は、常にすべてが正しく行われたか自問自答しなければならない」と述べつつも、養子縁組手数料のさらなる規制などには消極的な姿勢を示した。