専門家は、当時、中国からの国際養子縁組で慣例となっていた児童養護施設への高額な「寄付金」が、事実上、子供を獲得するための対価となり、施設側が国際養子縁組システムに積極的に関与する経済的インセンティブを生み出したと指摘する。
つまり、善意の「寄付」が、結果として子供の人身取引を助長するような環境を作り上げてしまった可能性があるのだ。
ロイテルスキョルド氏は、「世界で唯一、現職の首相がかつて世界最大級の養子縁組斡旋機関の会長を務め、厳しく批判されている国際養子縁組に積極的に関与していた国がスウェーデンだ」と、この国の特異な状況と、クリステション首相の道義的責任の重さを強調している。

国際養子縁組が“輸出産業”に?
スウェーデンの事例は氷山の一角に過ぎないのかもしれない。国際養子縁組の現場では、長年にわたって様々な不正行為が報告されてきた。
最も悪質なケースでは、貧困につけ込まれたり、甘言に騙されたりして、子供が実の親から誘拐されたり、金銭と引き換えに手放すよう強要されたりする。こうして集められた子供たちは、実の親とのつながりを失った「ゴースト・チルドレン」となり、出自を偽って養子市場に出されるという。親が健在であるにもかかわらず、書類上は孤児となる「ペーパー・オーファン(書類上の孤児)」の問題も深刻だ。
また、子供の年齢や健康状態、孤児であることの証明など、養子縁組に必要なあらゆる書類が偽造されることもあるという。これにより、養親は、子供の真実の姿を知らされないまま養子縁組を進めてしまう事態が発生する。
さらに、正規の斡旋手数料とは別に、高額な「寄付金」や「謝礼」、あるいは公務員への賄賂といった金銭の介在も頻繁に見られるそうだ。こうした不透明な金銭の流れは、子供がまるで商品のように「値段」をつけられ、取り引きされる現実を生み出している。かつて韓国では、国際養子縁組が外貨獲得の一手段とみなされ、「輸出産業」と揶揄された時代もあった。
人々の善意が、批判的な目を曇らせる
不正が横行する背景には、複数の要因が複雑に絡み合っている。
送り出し国においては、脆弱な法制度、行政機関の腐敗、貧困などが挙げられる。受け入れ国側にも、斡旋機関への過度な依存や、養親希望者の切羽詰まった状況を利用する悪質な業者の存在、そして何よりも「子供を救いたい」という善意が、時に批判的な目を曇らせてしまうという問題がある。
国際的な取り決めであるハーグ条約(国際養子縁組に関する子の保護及び協力に関する条約)も、その理念とは裏腹に、各国の国内法制や運用実態によっては十分に機能しないケースが少なくない。