ハダカデバネズミはなぜ老いない?(写真:Eric Isselee/Shutterstock.com)
年齢を重ねても、老いも衰えもせず、がんにもならない生き物がいる。アフリカ北東部の地下に生息するげっ歯類の一種、ハダカデバネズミ。マウスとほぼ同じような大きさなのに、寿命は30年以上とマウスの約10倍。なぜ、哺乳類の中で例外的に、ハダカデバネズミは老化やがんに強い耐性をもつのか? その不思議な生命のメカニズムを解明して将来ヒトに応用できれば……。そんな思いを持って研究に取り組んでいるのが、九州大学/熊本大学の三浦恭子教授だ。教授の研究室は今では、ハダカデバネズミに関する世界最大規模の飼育研究拠点となっている。
(竹林 篤実:理系ライターズ「チーム・パスカル」代表)
歳をとっても老けない生き物
見た目は、何とも愛嬌のある姿かたちをしている。名前にネズミとついてはいるけれども、ハダカだから毛は生えていない。さらにデバ、つまり出っ歯でもある。小さくてかわいらしい生き物だが、実はとんでもない生命力を秘めた動物でもある。
「平均体重は35gでマウスとあまり変わりません。けれども、これまで知られている中では40年も生きたものがいます。げっ歯類の中で寿命は最長、老化に対して強い耐性を持った生き物です」と、九州大学大学院医学研究院で長寿幹細胞医学分野、また熊本大学大学院生命科学研究部で老化・健康長寿学講座を持つ三浦恭子教授は、ハダカデバネズミの特徴を説明する。
(画像提供:三浦恭子教授)
老化耐性とは何を意味するのか。たとえばヒトの場合、加齢とともに老化が進行するにしたがって死亡率が高まっていく。20歳、40歳、60歳、80歳と歳を重ねるほど、指数関数的に死亡率が高くなる。これが典型的な老化、ヒトでは当たり前の現象だ。
ところがハダカデバネズミの死亡率は、年齢に関係なくほぼ一定に保たれている。
「歳をとっても死亡率が変わらないだけでなく、老化の様々な特徴が見られないことが知られています。具体的には心機能や筋肉量、体脂肪の組成、繁殖能力などさまざまな指標について高齢個体と若年個体で比べてみても、ほとんど変わらない。一般的に哺乳類は老化する生き物ですが、ハダカデバネズミは極めて老化しにくいのです」
長寿命の理由の一つとして考えられるのが、その生息環境である。ハダカデバネズミは地下、すなわち低酸素でかつエサも少ない環境の中で暮らしている。だから代謝も極めて低い。
低代謝であれば、エネルギー消費にともなう様々なダメージの発生がゆっくりになると考えられるため、これが寿命の長さに関与する可能性は高い。さらにハダカデバネズミは、単に寿命が長いだけでなく、老化耐性をもっている。では、最終的にはハダカデバネズミはどうやって死に至るのだろうか。


