アップルのクックCEO(7月10日、写真:ロイター/アフロ)
巨大IT企業の米アップルが今月8日に発表したCOO(最高執行責任者)の交代は、単なる経営幹部の刷新ではなく、ティム・クックCEO(最高経営責任者)体制の重要な転換点である。
地政学的リスクが広がる世界で勝ち残るための、次世代への布石と分析できる。
長年、アップルのナンバー2として、クック氏を支えてきたジェフ・ウィリアムズ氏が年内に退社し、それに先立ちCOOを退任した。
アップルは後任にベテランのサビ・カーン氏を任命した。本稿ではこの人事の背景と意味を探る。
安定の継承:サプライチェーンのスペシャリストが後任に
今回の人事で最も注目されるのは、アップルの生命線であるサプライチェーン(供給網)の安定性を最優先した点だ。
COOを退任したウィリアムズ氏は、クック氏がCEO就任前に築き上げた世界で最も評価の高いサプライチェーンの1つを完璧に引き継ぎ、運用してきた。
その功績から、社内ではクックCEOの絶対的な信頼を得た右腕と言われるほどの功労者だ。
後任のカーン新COOもまた、アップル在籍30年、過去6年にわたりオペレーション部門を率いてきたサプライチェーンの専門家である。
クックCEOがカーン氏を「卓越した戦略家」「サプライチェーンの中心的な設計者の一人」と評するように、専門性の高い後継者を指名したことは、経営の継続性を重視する明確なメッセージとなる。
同社が「長年計画してきた後継者指名」と説明する通り、それはアップルの強みであるオペレーション能力を損なうことなく、円滑な世代交代を成し遂げるという強い意志の表れだ。
喫緊の課題:「脱中国依存」を加速する新体制
安定継承の一方で、カーン新COOには喫緊の課題が託されている。
米中間の貿易摩擦や地政学リスクが高まる中、生産拠点の「脱中国依存」をさらに加速させることだ。
アップルのサプライチェーンは近年、米国の対中関税やホワイトハウスからの生産国内移管圧力など、大きな不確実性にさらされてきた。
この課題に対処するため、アップルはインドなどアジア諸国への生産多様化を進めており、カーン氏はこの動きを主導してきた実績を持つ。
同氏のCOO就任は、この戦略をさらに強力に推進するための布陣だ。
クックCEOが「世界的な課題に対してアップルが俊敏に対応できる体制を確保してきた」とカーン氏の実績を強調する背景には、この地政学リスクへの対応力の発揮という大きな期待が込められている。