備蓄米の試食会に参加し、おにぎりを口にする小泉農水相=2025年5月29日、農水省(写真:共同通信社)
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令和の米騒動では、「JAやコメ卸が米を買い占めたからだ」とか「海外に大量に輸出したからだ」といった、犯人探し・悪者探しの議論が活発に行われているが、さまざまな原因を一つ一つ検証し、包括的に原因を探った考察は見当たらない。そこで、米騒動の原因と思われる候補をシラミ潰しに検討し、妥当と思われる「仮説」を、一問一答の形で浮かび上がらせることを試みた。(篠原 信:農業研究者)

ふるい下米の不足、砕け米の多発、カメムシの被害

――2024年の夏ごろから、スーパーからコメが消え、やがて高騰しました。今も銘柄米の価格は4000円越え、昨年の倍に値上がりしています。なぜこんなにも高騰したのでしょうか?

 米騒動は当初、JAやコメ卸などの中間業者がコメを買い占め、売り渋っているからではないかなど、犯人探しが多かったし、農水省からもそれをにおわすような発言が相次いでいました。しかし結果として、「コメが足りないから」が原因だったと考えるのが、一番素直なように思われます。

――どのくらい不足したのですか?

 正確な数字が出るのは今年(2025年)の8月になるまで待たなければならないでしょうが、どうやら60万トン程度の米が不足したようです。

 農林水産省「米の需給状況の現状について」によると、2023年はコメの生産量が670万トンだったのに対し、需要量が691万トン、2024年は生産量661万トンに対し需要量が702万トンと、合計で62万トンの不足が生じています。

(写真:Bo_Bo/Shutterstock)

――なぜ不足したのですか?

 生産量が減ったことと、需要量が増えたことの両方が起きたようです。

 まず、生産量が減ったことについて。おコメをふるい(網)にかけて、下に落ちる小さなおコメを網下米(ふるい下米)、上に残るおコメを網上米というそうですが、2023年、2024年と2年続けて網下米が不足しました。

 農林水産省「ふるい下米の発生量(推計)」によると、2023年度(令和5年度)、2024年度(令和6年度)と2年続けて、この網下米が少なくなりました。2022年度と比べると、19万トン、11万トンの減少で、合計30万トン不足した格好です。網下米が減少した原因として、2023年、2024年とも晴天が多く、米粒が大きめになりやすかったこと、コシヒカリよりも大粒のコメがとれやすい品種に変えたことなどが指摘されています。

 商社などは、この網下米のうち、まだしもマシなものをスーパーや施設、飲食店などに格安のおコメとして販売してきました。ところが網下米が30万トンも不足したものだから、本来なら高品質で値段も高いので手を出さなかった網上米のうち、比較的安価なものを買い入れるより仕方なくなりました。これにより、網上米も不足感が出て、コメの取り合いとなり、高騰するきっかけとなったようです。

 また、本来なら高品質なはずの網上米にも問題がありました。玄米のうちにふるい(網)にかけ、大粒のものを網上米として選抜するわけですが、いざその玄米を精米してみると、崩れて砕け米になってしまうものが大量にあったそうです。特に新潟県ではそれが顕著で、網上米としての収穫量自体はそこそこあったのに、いざ精米してみると砕けてしまい、まともなおコメがろくになかったそうです。2023年の新潟県のおコメは、一等米がわずか4.9%。猛暑のためにコメの品質が悪化し、玄米の時には分からなかった、砕け米の大量発生が大きな影響を及ぼしたようです。

 しかも、カメムシによる被害も大きなものでした。カメムシがイネの汁を吸うと、斑点米と言って、変色したおコメになります。こうした斑点米が大量発生したために、おコメを色彩選別機というのにかけると、良好な品質のおコメの量がぐっと減ってしまったと言われています。

 残念ながら、砕け米や斑点米がどのくらいの割合で発生したのか、統計がとられていないため分かりませんが、2023年、2024年とも被害が小さくなかったと言われています。