中国が積極介入しない理由

 一つは、米国がイランに軍事的に圧力をかけることでイランは核を保有できず、さらに反米意識が強まり中国依存が強まることで、イランとの関係が良好な中央アジア、南アジアも中国側に引き寄せることができる。

 もう一つは、中東の紛争に米国が介入することはすなわち、米軍資源をそれだけアジアインド太平洋から中東方面へ移動するということであり、中国にとっては軍事力を使った台湾統一作戦をやりやすくなるという期待が高まるかもしれない。

 オランダのフローニンゲン大学の中国・中東関係専門家、ウィリアム・フィゲロアは独放送局ドイチェ・ベレ(DW)の取材に対し、中国の態度は、イスラエルを非難し、対話と紛争の冷却化を求めるという2点に集約されていて、実のところ積極的にイスラエル・イラン情勢に介入しようとはしていない、と指摘している。

「中国はこの紛争において主要な役割を担っておらず、この地域で力を発揮する能力もなく、伝統的な安全保障の意味において重要な当事者ではない」

 さらに言えば、中国の中東産石油への依存度は、たとえ中東戦争が拡大しホルムズ海峡が封鎖されるような事態になっても、大きな圧力となるほどではないという。中国の最大の石油供給源は現在ロシアであり、しかも国内にはかねて有事に備えての石油備蓄が積み上げられている。たとえ、中国がイランからの石油輸入を失ったとしても、中国に深刻な石油不足をもたらすことはない、という。

 つまり、中国はイスラエル・イラン戦争においては平和主義の傍観者として、米国とイスラエルの好戦姿勢を非難するだけで、グローバルサウスの盟主の地位が固まっていくということになる。

 一方、全く反対の見方もある。華人チャイナウォッチャーの文昭がセルフメディアで指摘した点をまとめると、次のようになる。

 イスラエルは今回、軍事行動だけでなくイラン国民に対する心理戦も展開している。ネタニヤフはイラン国民にイラン神権政府の暴政に抵抗し立ち上がれと呼びかけた。エルサレムポスト(16日)の社説は「イラン民衆よ、今立ち上がるとき」というタイトルで、「イスラエルはイラン民衆と戦うつもりはない、我々が戦っているのは我々、イスラエル人、イラン人、イエメン人すべてに危害を与える神権政府だ」「自分を救うため、地域を越えて助け合おう」と訴え、民衆蜂起を呼び掛けていた。

 イラン政府はある意味、恐怖政治による独裁体制であり、イラン当局にとってもっとも恐ろしいのは、イラン民衆がイラン政府を恐れなくなることだ。