「第3次世界大戦型」陣営に分かれつつある
松田:今年に入って欧州各国はロシアへの対抗姿勢を強めています。最大の理由は「ロシアの欲求はウクライナで止まらないんじゃないか」と感じ始めたからです。ウクライナでやったことをバルト三国でもやるかもしれない、と。
実はロシアはウクライナへの侵攻前から、バルト三国に駐留するNATO軍の撤退を要求しています。そしてロシアは今、バルト三国からのNATO軍撤退をウクライナでの停戦条件に掲げました。欧州各国の警戒感が急速に高まった背景には、こうした事情があります。
——バルト三国も旧ソ連から独立後は欧州の一員となったはずです。
松田:そうですが、ウクライナよりずっと小さな国々です。もしロシアが軍事的に手を出したらどれだけ持つかわからない。欧州では一番弱い場所と言えます。
プーチン大統領は歴史の流れを逆転したいのでしょう。世界の歴史を見ると、勝てていない戦争の局面打開のために、新たな戦争を始めた愚かな指導者はたくさんいます。
——この6月には、イスラエルによるイラン攻撃も起きました。ウクライナ戦争が中東情勢に与える影響は?
松田:中東各国は当初、ロシアの侵攻に批判的でした。しかし、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの民間人攻撃を西側諸国がほぼ放置していることに対し、「二重基準」ではないかとの見方を強めています。中東情勢が不安定になれば石油の値段が上がり、ロシアを利する結果にもなりかねない側面があります。
——ロシアによる戦争は国際秩序を揺るがしています。
松田:第2次世界大戦の未曾有の廃墟と殺戮の中から、二度とこういう惨禍を起こさないでおこうという反省のもとに、戦勝国と敗戦国の両方を含めて国際連合というシステムを作り、国際社会に法の秩序が作られてきました。このシステムは80年間、大きな戦争が再びヨーロッパから始まるということだけは止めることができました。
ウクライナ戦争は、形の上では侵略したロシアと侵略されたウクライナの戦いですが、ウクライナの後ろにはNATOやEUがあり、アジアでは日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドがそれぞれ支援している。一方、ロシアの後ろには、武器・弾薬を供給する北朝鮮、ドローンを提供するイラン、汎用品を提供する中国があります。形の上では「第3次世界大戦型」の陣営に分かれた戦争になりつつあると言えます。
——「ウクライナと西側諸国」VS「ロシアと中国」という2つの陣営に分かれていくのでしょうか。
松田:ロシアと中国の接近の度合いは今後の展開によって変わり得ると思いますが、中国は国連安全保障理事会の一員として、なぜもっとロシアを批判しないのか疑問です。いずれにしろ、今後の中国の動きから目が離せないのは確かです。
【後編】ウクライナ戦争の「結末」が日本にとって重要な理由…朝鮮半島有事なら影響避けられず
西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。


