『名誉と栄光のためでなく』(1966) 写真/Shutterstock/アフロ

(田村 惠:脚本家)

洋画、邦画を問わず今日まで7000本以上、現在でも年間100〜150本の映画を見ているという、映画を知り尽くしている田村惠氏。誰もが知っている名作映画について、ベテラン脚本家ならではの深読みを紹介する連載です。

『名誉と栄光のためでなく』の主役は誰か?

 中学生の頃、お盆に帰省した叔母と『名誉と栄光のためでなく』(マーク・ロブソン監督)という映画をめぐって口論になったことがある。この映画の主役は誰なのかで意見が分かれたのだ。

 イケメン好きの叔母はアラン・ドロンが主役だと言い、ぼくはアンソニー・クインだと言い張った。その当時、ぼくは二枚目が売りの人気俳優にやたらに反感を抱いていたので、アラン・ドロンが主役だと重々承知していながら意地でもそれを認めたくなかったのである。

 映画はインドシナ戦争から始まる。フランスの空挺部隊がヴェトコンとの戦闘に敗れて捕虜になる、その隊長がアンソニー・クインで、部下の中尉がアラン・ドロンである。

 戦争の終結とともに帰国したクイン隊長は、軍人として栄達する野心を胸に、戦死した上官の未亡人である伯爵夫人(ミシェル・モルガン)の知遇を得て、彼女の助力で今度は、フランスからの独立運動が激化しているアルジェリアに派遣されることになる。

 ドロン中尉も再びその指揮下に入りアルジェに赴くが、そこで現地の女性(クラウディア・カルディナーレ)と恋に落ち、さらに彼女の兄がかつてインドシナで共に戦った戦友で、今は独立運動のリーダーになっていることを知る。しかし、クイン隊長はそれを知りつつも、容赦なく掃討作戦を決行しようとする。今の彼は、立身出世のみならず、憧れの伯爵夫人に認められたいという願いも胸に秘めているのだ。ドロン中尉は板挟みになって苦悩する……。