あえて強い図像をつくらず、継続を促す

 今回出来上がった新築棟の「TELAS」を見て、初期の改修部分の“図像としての弱さ”や、“ぼやっとした領域性”が、“わざと”なのだということがはっきりした。

 空間としては安藤忠雄氏の初期の商業建築のような迷路体験なのだが、神殿的ではなく、路地的。冒頭に挙げた槇文彦氏の「ヒルサイドテラス」との比較でいえば、あちらはエリア内を輝かせることで周囲の底上げを図るというデザイン手法であったのに対し、こちらは最初から「周辺を含めたエリアをぼやっと輝かせる」というデザインなのだ。その中にあまりに強い図像を持ち込むと、中心がはっきりし過ぎて、周囲の価値が高まらないということなのだろう。

 プロジェクトとしては、新築棟が完成して事業としては大きな区切りなのだそうだが、たぶん誰が見ても「この先も何かが続く」ように見えると思う。

南側の立面はどう見ても「終わった」という感じがしない…

 言い方は悪いかもしれないが、まわりの別の建物あるいは土地の所有者も、「このくらいなら自分でも何かできるかも」と思うのではないか。そういう“継続感”、あるいは“頑張り触発感”は、大手デベロッパーが関わらない街づくりではとても重要なことだと思う。

 …と、そんな偉そうなことも、実際ににぎわいが継続しているのを5年近く見ているので書けるわけで、2021年8月時点でこれを掲載した『新建築』はすごいと思う。今年で100年の歴史なのに大御所べったりの“守り”に陥らず、その先見性は見事。こういうプロジェクトは盛り上げていく第三者の存在も大切だと思うので、そちらも褒めてみた。

 なお、Office Bunga・長井美暁によるオーナー・深野弘之氏のインタビュー記事はこちらでPDF版が読めるので、開発の想いはじっくりそちらをご覧いただきたい。

◎本稿は、建築ネットマガジン「BUNGA NET」に掲載された記事を転載したものです。

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