増殖の勢いが半端ではないユスリカ対策
淡水の天水槽などに「キンギョ」や「メダカ」を投入すると蚊の幼虫「ボウフラ」を実によく食べます。
本稿の校正時点で「海に面した万博会場でキンギョは棲息できますか?」と質問をいただきましたが、ハゼ、タナゴなど、汽水域に棲息する魚全般が、蚊の天敵です。
というより釣り餌として普及している「アカムシ」がユスリカの幼虫そのものですから、それで釣れる魚、あるいはアカムシ飼料で飼える魚なら、グッピーでもカダヤシでも何でもOK。
ただカダヤシは特定外来生物に指定されていますので、非常に効果的と考えられますが、夢洲近郊に放つわけにはいかない。難しいものです。
非常に原始的な方法に思えるかもしれませんが、実はこれが最も効果を発揮した実例があるのです。
東京から南に約280キロ離れた八丈島のすぐ隣にある「八丈小島」で、今から約70年前に多くの島民を悩ませていた奇病がありました。
島民に「バク」と呼ばれたこの奇病を根絶する際(八丈小島は現在は無人島)、最も力を発揮したのは「キンギョ」と「メダカ」ならびにフィラリア病原虫を駆除する医薬品「スパトニン」で、ヘリコプターを使って散布した殺虫剤DDTは、2か月と効力が持ちませんでした。
このバク退治に触れる前に、まずはユスリカ対策とその「根絶」が可能かをデータを参照しつつ検討してみましょう。
ユスリカの生活環は、卵が2日ほどでボウフラとなり10~25日ほどでサナギとなり、1~2日後に成虫となって3~7日ほどで(交尾を終えると)産卵~親は死亡。
早ければ3週間、長くても5週間ほどのライフサイクルとのこと。
ただ、これから暑くなるとサイクルは短縮すると思われ、6月1日に卵の状態でも、6月第3週末には第2世代が生まれており、1匹のメスが数百~数千個の卵を産むとのことです(シオユスリカ「Chironomus salinarius」の正確な産卵数は確定的には分かっていないようです)。
釣り餌などにも用いられるユスリカの幼虫「アカムシ」は、生命力が強く、万博「ウオータープラザ」のように天敵のいない人工池で水が淀めば、増えたいだけ増えて不思議ではない。
仮に1世代3週間で1000倍に増えるとすれば、これから夏の暑い時期、6、7、8月の12週間で4世代程度の交代が考えられ、現在の生息数の「10の12乗」倍、1兆倍、あるいはコンピューターのメモリーなどで用いられる単位を用いれば「テラ」倍。
ユスリカは夕方、光に惹きつけられて雄が群れ、いわゆる「蚊柱」を立てて少数のメスを巡って交尾の権利を争うとのこと。
4月13日の万博開始からすでに6週間程度経過しており、その間すでにこのライフサイクルが始まっているとすると、初期値(第1世代に何匹のユスリカが夢洲に引き寄せられてきたか?)にもよりますが、すでに億のオーダーでユスリカは存在していると仮定しても、大きく外れることはないでしょう。
ユスリカは「光に惹きつけられる」ので、「大屋根リング」に「大カーテン」など設置して、夜景ゼロにでもすれば、新たな虫の飛来は防げるでしょう。
会期が終われば誰も来ない。これは、ユスリカも人間も同じで、夢洲の宿命と思いますが「電気を消す」案は現実的ではない。
結論として、駆除は困難ということになります。
一方、いま大阪府が実施しているアース製薬との協働は、対症療法としては効果的かもしれませんが、環境に与える負荷が大きくなりやすい。
これに対して、八丈小島で実施された「フィラリア蚊掃討」(1948~63)の実例を引いて、大阪万博の「ユスリカ退治」を考えてみます。