
2025年5月22日──。今から15年前のこの日、ビットコインによる初めての商取引が行われた「ビットコイン・ピザデー」として知られる節目にあたる。今年のこの記念日に、ビットコインは1BTC=11万ドルを突破し、2025年1月の前回最高値を更新した。トランプ関税の影響で世界経済が揺らぐなか、なぜビットコインはいち早く回復したのか。本稿では、ビットコイン急騰の背景と、そこに見え隠れする通貨覇権を巡る思惑について考察する。
(松嶋 真倫:マネックス証券 暗号資産アナリスト)
米国資産からの逃避買いが強まる
2025年春以降、米国経済の先行きに対する懸念が強まっている。きっかけとなったのは、4月にトランプ政権が発動した「相互関税」だ。
すべての貿易相手国に一律10%の追加関税を課すという措置は、対中制裁関税の拡充に加え、日本やドイツなど貿易赤字国への上乗せ関税を伴い、市場に大きな衝撃を与えた。
この発表直後、ビットコインは一時的にリスク資産として売られたものの、金と並んで早期に値を戻し、ドル安が進行する中で逃避資金の一部がビットコインへと流れた。その後、関税による通貨の信認低下を反映するかのように、ビットコイン買いの動きが鮮明になっていった。
この流れをさらに加速させたのが、米国債の信用低下である。
5月16日、ムーディーズは財政赤字と累積債務の急増を理由に、米国債の格付けを最上位の「Aaa」から「Aa1」へ引き下げた。これを受けて長期金利は急騰し、外国勢の売りも観測されるなど、債券市場は不安定化した。
さらに5月22日、下院は大型の税制・歳出法案「One Big Beautiful Bill」を可決。2017年の減税措置の恒久化や国防費拡充を含むこの法案は、今後10年間で3.8兆ドルの財政赤字を生むとされ、米国債の需給悪化と財政の持続性に対する懸念を一層強めた。
こうした一連の動きにより、投資家の間では米国債・ドル・株式をまとめて見直す「アメリカ売り」が意識され、その資金の一部が安全資産である金や、代替的な価値保存手段としてのビットコインに向かっている。
金価格は4月に1オンス=3500ドルを突破し、ビットコインも記念すべき「ビットコイン・ピザデー」に1BTC=11万0000ドルを上抜けて史上最高値を更新した。特にドル安と債券安の局面に連動するように価格が上昇しており、従来の投機資産から「制度化された逃避資産」への性格変化が市場にも意識され始めている。