ラスボスは露骨に不満を示した

 高市氏は憲法審の議論について「各党が条文案を持ち寄って議論する機会を持っていないのは残念だ」と、露骨に不満を表明。特に、同党の船田元・与党筆頭幹事がこの日、条文起草委員会の設置について「やや慎重に考えざるを得ない」と述べたことに「かなり落胆している」と言い放った。

 自民党議員同士が、憲法審の平場で“内輪の喧嘩”を始めたのだ。
 
 高市氏ににらまれた船田氏は、その1週間後の15日の憲法審幹事懇談会で条文起草委員会の設置を提案したが、武正氏に「あり得ない」と一蹴された。おそらく船田氏としても、アリバイづくりに「言ってみただけ」でしかなかっただろう。

 ここまでの審議で分かったのは、自民党の改憲とは「自民党にとって都合の良い改憲は進めるが、都合の悪い改憲には『護憲派』として阻止を目指す」ということだ。緊急事態条項など「権力をほしいままにする」改憲には熱心だが、解散権制限のように「権力行使に制約をかける」改憲には、露骨に拒否反応を示す。

 忘れ難いのが、4月24日の審査会における同党の三谷英弘氏の発言だ。臨時国会の召集期限について「20日が良いのか30日が良いのか、正解のない議論が延々と始まることになり、憲法改正の発議を行う上での大きなハードルとなる」と述べたのだ。

 他党が前向きな改憲テーマの議論は、自民党が目指す改憲の邪魔になる。だから議論自体を潰しにかかる。真摯な議論で多数派の形成を目指すことさえ面倒がる。

 自民党の改憲論など、しょせんこの程度のものなのだ。

 憲法審査会の質疑を何回か聞いただけでも、この程度のことは分かる。マスコミは今年の憲法記念日(5月3日)も、相変わらず「護憲か改憲か」を問う雑な世論調査の結果を紹介していたが、そんな昭和の古い発想はもう改めてはどうか。

 改憲を叫ぶ勢力がどんな社会を作ろうとしているのか、目を凝らすべきはそういうことだ。

 もっとも筆者は、国会での改憲議論がこの先、これ以上加速するとは考えていない。

 自民党が、野党も賛同できそうな⑤⑥などのテーマに絞って改憲を目指す姿勢を示さなかったため、与野党がそろって同じ方向性で改憲を目指すことは、この先はもうないだろう。改憲勢力は千載一遇の「チャンス」(あえて言う)を逸したのではないか。

 憲法審査会は22日、今国会7回目の審議を行う。内容は偽情報対策などに関する参考人質疑だという。

 今後は実際の改憲につながらない地道な審議が、ひたすら続くのではないか(議論自体には、もちろん意味はある)。もしかしたら、改憲勢力のほころびが明らかになったことで、枝野氏は所期の目的を達したと考えているのかもしれない。