日テレに追い抜かれた焦り

 1982年から93年まで続いたフジの1度目の黄金期が終わったあと、民放のリーディングンカンパニーになったのは日本テレビだった。

 両局は伝統的に不仲ということもあり、フジは焦った。トップ病の一種だった。競争なのだから、ときに順位が落ちるのは仕方がないはずなのだが、フジは我慢ならなかった。サラリーマン社長の日枝氏が株主対策として好成績を求めたということもあるだろう。

 焦りの結果、視聴者からの抗議が相次ぐ番組や、やらせ番組が続いた。その1つは島田紳助氏(68)がMCを務めていた情報バラエティ『ウォンテッド!!』(1998年)である。事実として紹介されるVTRの真実性が強く疑われた。

 たとえば暴力看護師である。意識のない患者を看護師が暴行する場面が放送された。本物の看護師たちはやらせを疑った。プライドを傷つけられた。日本看護協会も激しく抗議した。

 職業差別につながりかねない放送は人権軽視でもある。しかもビデオには真実性に疑問符が付いた。

 背景にあったのは視聴率トップを取り返したいという強い思いだろう。この焦りが業績不振と不祥事体質を招いた4つ目の理由と見る。フジは今も潔く負けることが不得手である。

 フジの広報活動も興味深い。視聴率もCM売上高も4位でありながら、フジに関するネット記事は多い。おそらくトップクラスだろう。他局もフジに関する記事の多さは注意深く眺めている。

 一方でフジはめったに視聴率データを外部に提供しない。視聴率で負けっぱなしだからだろう。視聴率3冠王のころはしきりに視聴率データを出していたから、様変わりである。代わりに自分たちにとって有利なデータが出ることの多いTVerのデータをよくリリースする。

 フジが積極的に情報を出していることもあり、TVerが日常的に使われているものと誤解している人もいる。だが、実際には違う。

 TVerの利用率は関東こそ36%だが、近畿18%、中部16%、九州・沖縄12%、北海道4%、中国5%。まだ広く普及しているとは言えない。民放ビジネスは視聴率を中心に動いている。

 広報力が強く、いいデータばかり出していると、社内に危機感が広まらない。業績不振と不祥事体質を招いた5つ目の理由と見る。