三宅:私も「芥川」を読むたび思い出すことがあるんですけど、話していいですか!?
 
 高校の部活にめちゃくちゃ可愛くてモテる先輩がいたんですよ。私がその先輩に恋愛相談をしていて「彼氏と公園とか行っても、話すことなくないですか」みたいなことを尋ねたんです。

 そしたら彼女が言ったんですよ。「四つ葉のクローバーとか探しとけばいいんだよ」と。すごくないですか!?「芥川」を素でやっている先輩でした! 

 ほんと、「芥川」を読むたびにこの先輩のことを私は思い出すんです……。四つ葉のクローバーを探す女の子、自然に対してピュアな女の子って、可愛いじゃないですか。その話と、「芥川」で露を見て「あれ何?すごいきれい、真珠かな」と尋ねる女の子の話が、私の中で完全に重なっていて。現代にも通じるあざとさといいますか。

谷頭:だから、その延長線として思うんですけど、時代を超えても、男はそういうふうに騙されていく(笑)。

 男も本当はわかっているんですよ。「そんなわけないやん」って。「露ってわかるやん」みたいな。でも、騙されちゃうんだよなあ(笑)。それを面と向かって、しかも和歌の形で言われちゃうと、どことなく感じ入ってしまう可愛さがあるんでしょうね。

 三宅さんの話で言うと、「四つ葉のクローバーを探すんだ」って言って、「普段してないんだろ、そんなん」ってわかっていても、面と向かってそれを言われると可愛い、みたいな。

男性がグッとくる女性像は普遍的

絵・住吉如慶筆、詞・愛宕通福筆『伊勢物語絵巻』より「芥川」。東京国立博物館所蔵(出典:Colbase

三宅:『伊勢物語』って、一話がどれも短くて、いろんな恋愛の形が描かれています。
 
 初恋の話があれば、年上女性との話もあり、ハッピーエンドもバッドエンドもあるんですけど、現代の恋愛物語の型をすべて詰め込んでいるんじゃないか、ってぐらいいろんな女性のあり方が描かれていて。そこが面白い。

谷頭:あまり有名じゃないけれど、主人公の男が女性に幻滅した話もけっこう出てきますよね。

「地方から誘われたんだけど、行ってみたら無風流な感じでげんなりした」みたいな。そういうのも含めて、男の恋愛カタログっぽいところもある作品だと思います。

三宅:そうですよね。だからやっぱり、『伊勢物語』には現代の少女漫画に出てくるような恋愛物語の原型がいっぱい詰まっているんだな、って思います。平安時代の人もそういう話をコンテンツとして楽しんでいたって思うと面白いですよね。

谷頭:それに、やっぱり根本的には人間変わらないのかもしれないな、とも思いますよね。

三宅:そうですね。さっきの話でいうと男性がグッとくる女性像って普遍的なんだな、みたいな。

 現代でいえば私の「四つ葉のクローバー」の先輩もそうだし、平安時代でいえば『伊勢物語』「芥川」の女性のモデル・藤原高子がそうだったと思うんですけど、あざとい表現を自然体で言えるような女性が今も昔もいて。

 そしてそうした女性像にグッとくる男性がいるのも今も昔も同じなんでしょうね。