地域で異なるエスプレッソ
エスプレッソはイタリア発祥のコーヒーだ。圧力をかけて抽出した濃いコーヒーをデミタスという小さなカップで「くいっ」と飲む。国際カフェテイスティング協会のバリスタたちが入れた8種類のエスプレッソから2種類を味比べできるコーナーがあった。
イタリアでは、ブラジルやアフリカなど世界各国の豆を輸入し、焙煎の度合いを変えたり、多くの種類の豆をブレンドしたりして好みの味になるようにしている。そのブレンドに応じて地域の味わいがあるのだそうだ。
日本のように南北に長いイタリアでは、ミラノやトリノなど北にいくほど酸味が強く、ナポリなど南に行くほど苦味が強くなる傾向がある。また、同じエスプレッソでも北はカップが大きめで量が多い、南は小さいカップで北よりも砂糖をたくさん入れて飲むのだそうだ。
筆者は、イタリア中部エミリアロマーニャ州のエスプレッソと南部カンパーニュ州のいわゆるナポリ式のエスプレッソを味見した(写真2)。両者を比べると、やはりナポリ式は苦味が強かった。

この風味の違いはコーヒー豆の品種によるという。コーヒー豆の主な品種はアラビカ種とロブスタ種があり、アラビカ種は高地で育ち、香りがよい。一方、ロブスタ種は低地で育ち、カフェインをたくさん含み、苦味が強い。ナポリ式エスプレッソはロブスタ種を多く配合して、苦味を強めている。港ではたらく人たちに好まれるパンチのある味わいなんだそう。ぜひイタリアに行って、エスプレッソの飲み比べをしてみたいと思った。
熟成の違いを実感
エスプレッソのブースの近くで、グラナ・パダーノというチーズを紹介する試食セミナーを開催していた。パルミジャーノ・レッジャーノとよく似ているチーズだが、日本ではパルミジャーノ・レッジャーノほどは知られていない。どちらも北イタリアの特定の地域でつくられるが、パルミジャーノ・レッジャーノより歴史が古く、作られている地域も広い。イタリアで流通するハードチーズでは、圧倒的にグラナ・パダーノのほうが多い。
どちらも原産地呼称保護(PDO)に認定されており(後述)、生産地のみならず、原料や製法も厳格に決められている。グラナ・パダーノとパルミジャーノ・レッジャーノとの一番大きい違いは熟成期間だ。パルミジャーノ・レッジャーノは最低12カ月熟成させないといけないが、グラナ・パダーノは最低9カ月なので、熟成期間の短いやや若い、味わいが楽しめる。通常は9~16カ月、長いものでは20カ月以上熟成させる。この熟成期間の違いによって、風味の違いが出てくるという。
このブースでは、熟成10カ月、18カ月、24カ月と異なる熟成期間のチーズを食べ比べることができた(写真3)。10カ月のチーズでは、ソフトで甘みや牛乳由来の酸味があるのが特徴だ。先に述べたように、この甘味はパルミジャーノ・レッジャーノにはない。熟成期間が18カ月になると、色が少し濃くなり、うま味が強くなる。香りも変化している。

熟成期間24カ月のチーズは、アミノ酸が結晶化したじゃりじゃりとした食感があり、うま味がかなり強い。強烈なうま味のあと、苦味やえぐみをわずかに感じた。日本人はうまみに敏感なので、苦みやえぐみを感じる人が多く、好みは分かれる。一方、海外の人はそれほどうま味に敏感ではないので、これぐらい強烈でないとうま味を感じないという。苦味を感じることもなく、海外では好まれる風味だそう。
ここでは試食セミナーに参加した7人が味見をしたが、好みは10カ月熟成チーズ3人、18カ月は2人、24カ月は2人と見事に分かれた。筆者は24カ月がおいしかった。苦味を感じたものの、強烈なうま味が斬新だったからだ。チーズの複雑な味わいを知る一端となった。