GoogleのAIサマリーでトラフィックが49%減

 教育支援サービスを提供する米Chegg社は、Googleが検索結果に生成AIによる回答(先ほど蔦屋重三郎の例で示したもの)を表示し始めた影響で、サイト利用者が激減したと報告している

 それによると、同社のウェブサイトへのトラフィックは、GoogleがAIサマリー機能を導入した昨年後半以降に急落し、2024年1月には前年同月比で49%減と半減近い落ち込みを記録した。

 これについて、Cheggは「Googleは1セントも支払うことなく、Cheggのコンテンツから金銭的利益を得ている」として非難。そして自社の詳細な解説コンテンツがGoogleの生成する回答に無断利用され、ユーザーを奪われているとしてGoogleを提訴するに至っている。

 またニュース出版社各社が、OpenAIやAI検索サービスのPerplexityに対し、無断で記事を学習・利用されたとして著作権侵害で提訴する動きも出ている。

 このように、生成AIによる回答提供は様々な業界で既存のウェブ集客モデルに影響を及ぼし始めており、企業側は何らかの対策を講じる必要性が高まっている。そのひとつが、冒頭で述べた「GAIO」というわけだ。

 そんなに生成AIに自社のウェブサイト上のコンテンツを「借用」されるのが嫌なら、彼らのスクレイピングを禁止してしまえばいいという意見もあるかもしれない。実際、AI用と見られるクローラー(スクレイピングを行う自律的アプリケーション)のアクセスを拒否し、コンテンツを守るという対応も技術的には可能だ。

 しかし、実際には困難が伴う。多くのAIクローラーは正体を明確にしていないため、その検出は難しい。また、Googleのクローラーは通常の検索インデックス用途とAI用途を区別しづらく、一律に拒否すれば通常の検索順位にも悪影響が及びかねない。そこで、クローラー拒否以外のアプローチを検討する必要があるわけだ。

 そのためには、自社サイトを訪問するのが人間だけでなく、「ロボットも大切な訪問者である」という意識が欠かせない。その上で彼らをどう利用するか、そのために彼らの挙動をどうコントロールするかの検討を進めるのだ。

 たとえば、AIによるコンテンツ利用そのものを収益化するモデルも考えられている。

 先ほどForbes誌で報じられたレポートを作成した、コンテンツライセンシングプラットフォームのTollBit社は、AI企業がウェブサイトをスクレイピングするたびに課金する仕組みを提供している。この仕組みには、雑誌のELLEやCosmopolitanなどを手掛けるメディア企業Hearstなど、500以上の出版社が参加している。

 このように、第三者のサービスを活用して自社コンテンツのAI利用に対価を求めることが現実味を帯び始めており、利用の検討を始めるべきだろう。

 さらに、生成AIがユーザーからどのような質問を受けてどの情報を参照しているかといったデータを分析し、自社のコンテンツ戦略にフィードバックすることも有益だ。AI経由の間接的なニーズを把握することで、新たなキーワードやコンテンツ企画のヒントを得ることができる。

 こうしたAI時代ならではのデータ活用により、従来とは異なる角度からトラフィックと収益の関係を最適化していくことが求められている。

 生成AI時代において、どのように自社コンテンツを最適化していくか、GAIOの取り組みは始まったばかりだ。今後さまざまな事例やノウハウが世に出てくることだろう。

小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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