(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年1月14日付)

「次期大統領は少し遊んでいるんだと思う」
これは、カナダは米国の51番目の州になるべきだとするドナルド・トランプの最初の発言に対し、米ワシントンに駐在しているカナダ大使が示した反応だ。
威嚇的な「ジョーク」は、トランプが好むコミュニケーション手法の一つだ。
だが、米国の次期大統領は今、カナダを取り込む野望について延々と話してきたことから、カナダの政治家はその野望を真剣に受け止め、公の場で拒否することを余儀なくされている。
カナダ人は、トランプがカナダを侵略する可能性を否定し、代わりに「経済的な力」で脅しをかけていることに少しばかりの慰めを見いだせる。
だが、トランプはパナマ運河を「奪還」し、デンマークの自治領グリーンランドを乗っ取る野望を果たすための軍事行動を否定することは拒んでいる。
これもまた気楽な冗談なのか。
ドイツの首相とフランスの外相はトランプの脅しをそれなりに真剣に受け止め、グリーンランドは欧州連合(EU)の相互防衛条項の適用対象だと警告した。
言い換えるなら、少なくとも理論上は、EUと米国がグリーンランドをめぐって戦争に突入する可能性があるということだ。
カナダやパナマ運河、グリーンランドへの野望
トランプの擁護者と追従者はこの状況すべてを大きなジョークとして扱っている。
米ニューヨーク・ポスト紙は新たな「ドンロー・ドクトリン」――西半球に干渉するなというメッセージを欧州諸国に送った19世紀のモンロー・ドクトリンにかけた言葉――を宣言し、グリーンランドに「我々の土地」というラベルを張った地図のイラストを添えた。
共和党下院議員のブランドン・ギルはしたり顔で、カナダ人やパナマ人、グリーンランド人は米国人になるという考えを「光栄」に思うべきだと言った。
だが、小国の権利はジョークでは済まない。
大きな隣国が武力や威嚇によって国を乗っ取ることは、国際政治の世界において最大の警鐘となる。
それは「ならず者国家」が前進していることを示すシグナルだ。
西側の同盟がロシアに対するウクライナの抵抗を支援することが決定的に重要であることを知っていたのは、そのためだ。
米国が1990年代にイラクをクウエートから追い出すための国際的な連合軍を結成したのも、そのためだった。