ランナー人口が増えれば当然、そこに新しい市場ができる。
東京マラソンが始まる直前の2007年2月、スポーツ用品大手のアシックスは東京・銀座にランニング用品専門店をオープンした。それ以降、ランニング用品は「快走」を続け、2008年4~12月期の売上高は、シューズが前年比20%増、ウエアは30%増。世界金融危機下の不況にもかかわらず、好調を持続するのは「東京マラソンの効果が非常に大きい」(同社広報担当)という。
東京マラソン事務局によると、実施に当たって最大の障害になったのが、交通規制である。何しろ、最大6時間20分も都心の道路からクルマを締め出してしまうのだ。それができたのも、石原都知事の豪腕だろう。
その腕力が別の形で使われると、おかしなことになる。例えば、石原知事主導で設立された新銀行東京は、開業後わずか3年で1000億円を超える累積赤字を抱えてしまった。この問題では知事に重大な責任がある。
しかし東京マラソンに限れば、右顧左眄しないで「決断」する知事の姿勢が、若い女性を巻き込んだランニング文化を生み、新しい市場を創り出した。
「昨日の延長線上」は無力、重くなった社長の責任
トップは決断できなければならない。
長年、企業取材を続けてきて何度そう思ったことか。耳に痛い情報を聞きたがらない社長は、世の中にはいくらでもいる。だから、周りの幹部はこうした情報をトップに上げない。
問題が起きれば、社長は「知らなかった」。だが、知らないこと、つまりマイナス情報が耳に届いていないことこそ、「社長失格」の証明なのだ。こんなトップは、何も決められない。大企業の若くて有能な社員から、決断できない首脳への不満を聞かされた経験は数え切れない。
今、「100年に1度」の経済危機が続いている。実体経済、それを取り巻く環境は非連続的に変わり、「昨日の延長線上」では物事を考えられない時代を迎えた。
それだけに、決断できない企業トップは、何も生み出すことができず、企業を存亡の危機に追いやるだけ。戦後、社長の責任がこれほど重くなった時代はなかっただろう。
そんなことを考えながら、42.195キロを駆け抜けた。
3.5万人が東京を駆け抜けた 出所:東京マラソン事務局
