2019年にも、香港のような大規模なデモは起こっていない。マカオの玄関口であるフェリーターミナルには、「同飲一江水 思源懐祖国」(一本の川の水を一緒に飲み、水源である懐かしい祖国を思う)と書かれた巨大なスローガンが掲げられていて、マカオ人たちは特に違和感もなさそうに通り過ぎていた。
考えてみれば、マカオ特別行政区の最大の財源はカジノ収入で、カジノへ来る客の大半は中国大陸の人たちなのだから、「お客様は神様」なのだろう。客がカジノで勝てば、その35%をマカオ特別行政府に税金として納付する。
今年1月から11月までのマカオの歳入は1009億パダカ(約1.9兆円)で、そのうちカジノからの税収が810億パダカ(約1.5兆円)と80.3%を占める。そうした「慈雨」をもたらしてくれる祖国を愛しなさいというわけだ。
習主席はカジノ嫌い?
第二に習主席が求めるのは、第一とは逆行するようだが、「カジノからの脱却」である。習主席は、この12年あまりの言動を見ていて、明らかに「カジノ嫌い」だ。
そもそも習主席が、2012年11月に共産党総書記に就任して、初めて全党全国民に向かって発した指令が、「八項規定」(贅沢禁止令)だった。当時流行していた、マカオのカジノで接待してマネーロンダリングを行うような贈収賄の輩(やから)を、片っ端から捕らえていったのだ。
現在でも、中国大陸ではカジノ厳禁である。競馬や競輪、マージャンに至るまで、金銭を賭けたものは禁止だ。サウナのロビーなどには、「賭博を発見したら厳罰に処す」と張り紙がしてある。
習主席は岑浩輝新体制に、カジノに関する早期の法律改正を求めたという噂も出ている。これまではカジノ収入に対する課税だったが、それを各カジノそのものに「固定資産税」として課税するよう法改正するというのだ。
そうなると、カジノの運営会社に重い負担がのしかかるようになる。実際、今年6月16日、老舗の地元資本大手カジノの「利澳」が半世紀の歴史に幕を閉じ、マカオ市民に衝撃を与えた。