NATO側の譲歩と停戦交渉の兆し
ロシア側のオレシュニク発射と核ドクトリンの見直しという恫喝は効力を発揮した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は12月1日、キーウ(キエフ)で共同通信と単独会見した。
ロシアが2014年に併合したクリミア半島を含む一部の占領地について、武力での奪還が困難だと率直に認めた。
外交で全領土回復を目指す必要があると述べ、NATOへの加盟が確約され、ロシアの侵略を抑止する環境が整えば、一部領土は戦闘終結後に交渉で取り戻すことを容認する方針に転換したと報じられている。
(『共同通信』2024年12月1日)。
しかし、ゼレンスキー大統領は停戦交渉開始前のNATO加盟を要求したものの、バイデン大統領もトランプ次期大統領も応じず、NATO加盟諸国からも、加盟はロシアとの戦争の完全終結が条件だとされ、事実上拒否された。
他方のロシアは、ウクライナのNATO加盟を認めず中立化、非軍事化を要求し占領地の返還に応じる意思は示していない。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、元米FOXニュースのキャスター、タッカー・カールソン氏との12月初旬のインタビューで、国連憲章でも認められている民族自決の権利を理由に、クリミア、東部・南部ドンパスのロシア系住民の権利擁護のためとして、ロシアの軍事行動の正当性を主張している。
また、ロシアには核使用のレッドラインはあるとしつつも、誰も核戦争を望んでいないとし、交渉に応じる姿勢を明示している。
バイデン政権はロシア側との外交的接触を断っているが、トランプ次期政権の要人は、停戦案を提示している。
J.D.バンス次期副大統領は、現戦闘接触線で停戦し、その間に非武装地帯を設け、ウクライナのNATO加盟は認めず、その代わりウクライナ側の停戦ライン沿いに堅固な陣地を構築し、ロシアの侵略を抑止するという案を提示している。
それに対し、トランプ次期大統領からウクライナ戦争担当特使に任じられたキース・ケロッグ元陸軍中将は、現戦闘接触線で停戦し、その間に非武装地帯を設ける点は同じだが、ウクライナのNATO加盟を10年から20年先送りし、プーチン大統領退任後にNATO加盟を再度協議する余地を残すという案を提示していると伝えられている。
トランプ政権の2つの仲介案の異なる点は、ウクライナのNATO加盟の可能性を残すか否かにある。
しかし、戦場でのウクライナの敗北とNATO側がロシアの核恫喝の前に譲歩せざるを得ないという、ロシア側の優位というバランス・オブ・パワーの現実を踏まえるならば、結局はロシア側の要求が通り、バンス案に近い案で決着するとみられる。
すなわち、ロシア側の占領地域は事実上割譲され、ウクライナのNATO加盟を認めず中立化を関係大国が保障するという形で停戦交渉妥結に至るものと予想される。