(ライター、構成作家:川岸 徹)
アール・ヌーヴォーの代表的存在である芸術家アルフォンス・ミュシャ(1860-1939)。今も世界中のアーティストにインスピレーションを与え続けるミュシャの傑作を、高解像度のプロジェクションで堪能する新感覚の没入体験型展覧会「グラン・パレ・イマーシブ 永遠のミュシャ」が日本に上陸した。
ミュシャ人気が再燃
19世紀末から20世紀初頭にかけて、一世を風靡した新しい芸術様式「アール・ヌーヴォー」。チェコ共和国で生まれパリで活動していたアルフォンス・ミュシャは、女優サラ・ベルナールのポスターを制作し、一躍「アール・ヌーヴォーの旗手」と呼ばれる存在に。しなやかで優美な曲線と、軽やかでいて心に響く美しい色彩。さらに異国情緒やクラシックな趣を感じさせる独自の装飾性によって、ミュシャは時代の寵児となった。
ミュシャの人気は今も根強いが、その人気がここにきて一段と高まっているようだ。2024年、日本ではミュシャ展が相次いだ。全国を巡回し現在は横浜・そごう美術館で開催されている「ミュシャ展 マルチ・アーティストの先駆者」、大阪・名古屋が会場の没入型展覧会「ミュシャ展~アール・ヌーヴォーの女神たち~」。東京・府中市美術館では市制施行70周年の記念展として「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」が開かれた。
そんな“ミュシャ・イヤー”のラストを飾るのが「グラン・パレ・イマーシブ 永遠のミュシャ」。グラン・パレ・イマーシブとミュシャ・トラスト(ミュシャ財団)が2023年にパリで開催したイマーシブ展覧会「Éternel Mucha」を日本向けにアレンジしたもの。高解像度のプロジェクションを用いて次々に映し出される代表作を鑑賞しながら、ミュシャの生涯を没入体験していく。
アルフォンス・ミュシャの曾孫で、ミュシャ・トラストの理事長を務めるマルカス・ミュシャ氏は話す。「2018年頃から、最先端のテクノロジーを用いたイマーシブ(没入体験型展覧会)が増加。ただし初期のプログラムは華やかなショーといった雰囲気で、学術的な知見を紹介する展覧会ではなかった。これは、自分たちの手で作り上げるしかないと感じた。様々な試行錯誤の末に生まれたのが、今回、日本で開幕した『永遠のミュシャ』です」
その言葉通り、「永遠のミュシャ」は、代表的な作品を華やかな演出で見せるだけのものではない。もちろんイマーシブ映像の圧倒的な迫力と美しさに心は踊るが、ミュシャの画業や人物像もしっかりと分析されている。「ミュシャ独自の女性の描き方である“ミュシャ様式”はどのように生まれたのか」「1900年のパリ万博でミュシャは何を表現したいと考えたのか」「フランスやアメリカで成功を収めながら、なぜ祖国へと戻ったのか」。丁寧な解説により、ミュシャの核心に近づいていくことができる。