エネルギーの脱ロシア化を進めるEUだが、ロシア産天然ガスやLNGの輸入は続いている。ウクライナを巡り対立が深まっているにもかかわらず、天然ガスの輸入が止まらないのはなぜか。その背景を解説する。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ロシア最大の天然ガス会社ガスプロムは、11月16日をもって、オーストリアのエネルギー大手OMV向けのガス輸出を停止した。これに先立ち、OMVは、ガスプロムの輸出子会社ガスプロム・エクスポートによるガス供給の不履行を巡って国際商業会議所(ICC)に仲裁を申し立てていた。そのことへの報復措置だったようだ。
経済・金融制裁に反発するロシアは、ノルドストリームとヤマルパイプラインを通じたロシア産天然ガスの供給を停止したが、ウクライナ経由のガス供給は継続している(図表1)。ヨーロッパ側との契約が残っていることに加えて、通行料が収入となるウクライナがそれを容認しているためだ。
【図表1 ガスパイプライン経由でEUに輸入されるロシア産天然ガス】
化石燃料の脱ロシア化を掲げる欧州連合(EU)は他国からのガス調達を増やしているが、ウクライナ経由で供給されるロシア産ガスは受け入れ続けている。OMVもウクライナ経由で供給されるロシア産天然ガスを輸入してきたが、ガスプロムの措置を受けて、ロシア以外の国からガスを調達する必要に迫られることになった。
一方で、ウクライナ経由でヨーロッパに流入するロシア産ガスの量は減らないようだ。このルートを通じて、ハンガリーやスロバキアがロシア産ガスを輸入するためである。
ハンガリーとスロバキアはEUに属しているにもかかわらず、ともに親ロシアの姿勢を鮮明にしている。そのため、ロシアのガスプロムはガスの供給を続ける見通しだ。現に、ガスプロムがOMV向けの輸出を停止したあとも、ウクライナ経由でヨーロッパに向かうロシア産ガスの量には変化が生じていないようだ。
予定では、ウクライナ経由でのロシア産ガス供給ルートは年末を持って閉ざされることになっている。代わりに、アゼルバイジャンなど他国産ガスをこのルートで調達することが検討されたようだが、その場合、ロシアのパイプラインを経由することになる。そうなればガスに色はなくなるため、ロシア産ガスが引き続きヨーロッパ市場に供給されることになる。
他方で、EUはロシア産の液化天然ガス(LNG)の輸入も継続し続けている。EUの執行部局である欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は11月8日、記者団に対して、EUにロシア産LNGが流入することに関して苛立ちを述べている。
それではなぜ、脱ロシア化を図るEUに、ロシア産ガスが流入し続けているのだろうか。