倫子はまひろと道長の「秘めたる関係」に気づくのか?

 前回放送時の予告で、妻の倫子(りんし/ともこ)が夫の道長に向けた言葉に、視聴者が凍りついた。

「殿がなぜまひろさんをご存じなのですか?」

 今回のドラマでは、まひろと道長が恋仲にあり、互いに別の相手と結婚した後も人目を忍んで会っている。まひろの娘・賢子(かたこ)は、道長との間にできた子どもである──という設定になっている。

 そのうえ、まひろは、まだ道長と結婚する前の倫子と和歌の勉強会で出会い、2人の間には、身分を超えた友情めいたものさえ生まれていた。それだけに、道長の娘・彰子のもとに、まひろが女房として仕えるというのは、実にスリリングな展開である。

『光る君へ』で藤原道長の妻・倫子役を熱演する黒木華さんまひろと道長の「秘めたる関係」に気付いたか?道長の妻・倫子役を熱演する黒木華さん(写真:共同通信社)

 倫子は勘のよい女性として描写されている。まひろと道長の秘めたる関係にも、いつか気づくことだろう。そのため、前回の予告で流れたシーンにはヒヤリとさせられたが、道長は想定問答を準備していたのだろう。まひろを知っている理由について、こんなふうにうまく妻に伝えている。

「公任に聞いたのだ。面白い物語を書くおなごがおると。帝はそのおなごが書いたものをお気に召し、続きをご所望だ。藤壺にそのおなごを置いて、先を書かせれば、帝も藤壺にお渡りになるやもしれぬ」

 藤壺とは、彰子が暮らしている場所のことだ。これには倫子も「名案ですわ、殿」と喜び、まひろは彰子のもとに出仕することとなった。

 実際の紫式部は日記で、倫子とのこんな逸話を書いている。1008(寛弘5)年9月9日、紫式部のもとに源倫子からプレゼントが贈られてきた。「菊の着せ綿」である。

 その綿を用いて体や顔を拭うと老化防止になると言われており、「この綿で、うんとすっきり老化をお拭き取りなさいませ」という倫子からのメッセージも式部に伝えられたという。

 式部はそんな倫子に向けて「菊の露 わかゆばかりに 袖ふれて 花のあるじに 千代はゆづらむ」という歌を作って贈ろうとした。

 意味としては「私ごときはほんのちょっと若返る程度に袖をふれるだけにとどめまして、この露がもたらす千年もの歳は、花の持ち主であるあなた様にお譲り申しましょう」というもの。受け取り方によっては「菊の着せ綿による若返りが必要なのは、私ではなく、倫子さまの方ですよ」と言い返しているように思える。

 結局、式部は歌を贈るタイミングを逸してやめているが、このやりとりも含めて2人の間にバトルは生まれるのだろうか。式部と倫子の緊張感ある人間関係を楽しんでいきたい。

 そして、まひろはついに道長の娘・彰子のもとに出仕することになった。父の為時は「帝の覚えめでたく、その誉れをもって藤壺に上がるのは悪いことではないぞ。女房たちも一目置こう」と後押しした。

 だが、「一目置かれる」ということは当然、人間関係において軋轢を生むこともある。式部の多難な宮仕えがいよいよスタートする。

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『藤原道長』(山中裕著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。