2035年までに乗用車の新車販売で完全ZEV化(ゼロエミッション車100%)を目指すという目標を掲げている英国。そのために、今年の新車販売では少なくとも22%をZEVにすることが義務付けられているが、その実現は難しい情勢だ。
目標が実現できない場合、不適合車一台につき1万5000ポンドもの罰金もの罰金を課される自動車メーカーは政府が大規模な購入補助金を出すべきだと主張しているが、増税に着手しようとしている労働党政権に果たして可能なのか。EU(欧州連合)だけでなく、英国でもEVシフトは曲がり角にきている。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
英国では7月の総選挙で中道左派の労働党が歴史的な大勝を収め、政権交代を実現した。その労働党が追求する分配重視の経済運営がスタグフレーション(景気停滞と物価高進の併存)の時代にご法度なことは、歴史が証明している。それでも労働党政権は分配路線を歩むのか、10月30日に公表される来年度予算の内容が注目されるところである。
加えて、ゼロエミッション車(ZEV)の普及に関する労働党政権の対応も注目される。ZEVとは、走行時に二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを排出しない自動車のことだ。2023年9月、保守党のリシ・スナク前政権は50年の気候中立に向けた戦略を見直した際に、35年までの乗用車の新車販売の完全ZEV化を目標に掲げていた(図表1)。
【図表1 スナク前政権が定めた新車販売台数に占めるZEVの販売割合目標】
ZEVは実態として電気自動車(EV)であるため、スナク前政権は2035年までに乗用車の新車登録のEVシフトを完了させるとしたわけである。この目標に従い、英国では今年の新車販売台数のうち、少なくとも22%をZEVにすることが義務付けられている。しかし英自動車工業会(SMMT)によると、この目標の実現はかなり厳しいようだ。
実際に英国の今年1月から9月までの新車登録の累計台数の内訳を動力源別に見てみると、合計151万台のうちEVは27万台と全体の18%を占める程度である(図表2)。ここから22%までシェアの拡大を目指すことは至難の業だ。しかし実現できなかった場合、各自動車メーカーは不適合車一台当たり1万5000ポンドもの罰金を支払う必要がある。
【図表2 2024年1-9月期における新車登録台数の動力源別内訳】
SMMTのマイク・ホーズ最高経営責任者(CEO)は、すでに今年は業界全体で20億ポンドに及ぶ値引きキャンペーンを実施しており、これ以上の努力は不可能だと主張している。それでも政府が22%のZEV化目標の実現を業界に要求するなら、政府が大規模な購入補助金を出すべきだと主張し、自動車業界は政府に対して反発を強めている。