大谷の一挙一動には、いつも周囲の視線が注がれている。だから監督と会話している姿を目撃されると、必ずあとでそのことを記者に質問されるのだろう。

 それが面倒なのか、あるいは単に僕のことが苦手なのか、いずれにしても人前ではよっぽど話しかけられたくないと見えて、彼だけはいつも決まって逃げていく(笑)。

 だからというわけじゃないが、「普段の大谷選手ってどんな感じですか?」と質問されても、正直、よく分からない。今年9月(編集部注:2015年、執筆当時)にお笑いコンビのナインティナインが司会のスポーツ特番が放送され、そのなかで大谷が取材を受けていた。

 コンビニで売っているクレープが大好きという意外な一面などが紹介されていたが、僕も「へぇ、そうなんだ」と驚かされることがたくさんあった。

 意外に思われるかもしれないが、本当のことを言えば僕にも大谷翔平という男の本質は見えていない。もしかしたら、ファイターズの選手のなかでも一番分かりにくいタイプかもしれない。

 ファンの皆さんに愛されるあの屈託のない笑顔も、マウンドやバッターボックスで見せる負けん気の強さも、もちろんみんな大谷翔平の一部なんだけど、じゃあ本当の彼がどういう人なのかと言われると……。

 全部大谷なんだけど、全部大谷じゃない。

 なぜ、それが分かりにくいのか。実は彼自身も、まだ本当の自分のことが分かってないんじゃないだろうか。いわゆる「演じている」というのとは少しニュアンスは違うが、きっと本人にも、自分は大谷翔平でいなきゃならない、苦しいけどみんなが喜んでくれるんだったら、それを絶対にやってやるんだ、という強い気持ちがどこかにあるんじゃないだろうか。そのために、ただがむしゃらに感じたことをやっているだけなんじゃないかって。

 このことは、いつかぜひ本人に尋ねてみたい。僕がユニフォームを脱いだあとに、いつの日か必ず。

 ただ、これだけは言える。「本当に誰も歩いたことのない道を歩きたい」という彼の言葉は、紛れもなく大谷翔平の本質を示す真実の言葉であり、これからも堂々とその道を歩いてゆくに違いない。

 こっちはこっちで、そのために全力を尽くすだけだ。

(『監督の財産』収録「4 未徹在」より。執筆は2015年9月)

9月9日『監督の財産』栗山英樹・著。大谷翔平から学ぶべきもの、そして秘話なども掲載。写真をクリックで購入ページに飛びます