3.経済安保と経済活動の間のバランス

 以上のような事実は経済安保を重視する側の政府関係者にとっては好ましくないと見られているが、ビジネス側の人々にとっては歓迎すべきことである。

 経済安保政策は安全保障上の必要に基づいて自由な経済活動を制限するものである。

 主体は政府であり、前提は国家間のゼロサム関係、すなわち、相手国のメリットは自国のデメリットになるという考え方である。

 これに対して、経済活動の目的はビジネスの拡大である。

 主体は民間企業であり、前提はウィンウィン関係、すなわち、相手先のメリットは自社のメリットであり、相手先の損失は自社の損失につながる。

 経済取引において売買が成立するには売り手と買い手の双方が納得することが大前提であり、そこから相互依存関係が生まれる。

 米国政府にとって中国は敵対するライバルであるが、米国の民間企業にとって中国企業は多くの場合、顧客または友人である。

 このように経済安保と経済活動は根本的に相容れない2つの活動である。しかし、国家にとっても企業にとってもいずれも必要である。

 このため、両者の間で適度なバランスを確保することが重要である。

 良好なバランスが確保されると、国家の安全が長期的に確保され、経済活動も拡大が続いて、両国民とも満足する。

 これは東洋思想の陰陽論で説明可能である。

 陰と陽の関係は、夜と昼、女と男、大地と天などの対比で意識される。人が安心や幸せを得るためには、陰と陽の両方が必要であり、陰陽相和して、両者のバランスがうまく保たれた調和の状態が維持されることが重要である。

 どちらか片方にバランスが偏ると安定が失われ、誰もが苦しむことになる。良好なバランスは中庸という言葉で表現される。

 こうした観点から説明すれば、経済安保は陽、経済活動は陰である。

 経済安保がなければ長期的な国家の安全の確保が難しくなる。しかし、その国家の国力の土台は主に民間企業が支える経済力である。経済力が低下すれば安全保障のために必要な装備や人材を確保することができなくなる。

 その両者の間のちょうどいいバランスが中庸である。

 政府も民間企業も自分の庭だけを見て考えていると全体のバランスが見えなくなる。米中両国の政府の関係についても同様である。

 広い視点から相互に理解し合うと中庸の着地点が見えてくる。

 官民、米中の対話を通じて相互理解を高め、中庸を意識しながら具体的な政策運営の中身を調整し、良好なバランスを保つ努力の継続が大切である。