その後も、開幕直後に肉離れをするなどアクシデントがあって、こっちは「メジャーに行ける状態だろうか」「中途半端な気持ちになったら余計リスクだな」などと考えることは何度もあった。でも、いつだって杞憂で、答えは「行きます」。どんなことがあっても本人はいっさいブレなかった。

 そうして2017年12月9日。ロサンゼルス・エンゼルスに入団することが決まる。

 新年に入った1月28日、私たちは2018年のシーズンに向けてキャンプ地であるアメリカ・アリゾナ州のスコッツデールへと向かった。もちろん帯同しない翔平は日本に残り、二軍施設のある鎌ヶ谷でトレーニングを行いながら2週間後の渡米に備えていた。

 私たちが2週間のキャンプを終えアメリカから日本に戻った時、入れ違いのように翔平はアメリカへ渡る──そうして日本に帰ってきた時、私たちは翔平からのメッセージを目にすることになる。

 鎌ヶ谷にあるウエイトルームのホワイトボードに人気漫画『スラムダンク』の登場人物がびっしりと書いてあったのだ。聞くと、トレーニングをした後、時間を持て余してずっと絵を描いていたらしい。安西先生や仙道といった人気キャラはそれぞれ特徴を捉えていて、うまい。

 その中にあった三井寿の号泣する絵には、一言、「お世話になりました」と書いてあり、その下には翔平のサインがしてあった。

 戦ってきた「仲間」への言葉。翔平らしいな、と思って今も鎌ヶ谷には残してもらっている。

(『監督の財産』収録「7 集大成(2019~2021)」より。執筆は2024年)

9月9日『監督の財産』栗山英樹・著。大谷翔平から学ぶべきもの、そして秘話なども掲載。写真をクリックで購入ページに飛びます