(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年6月13日付)
東京メトロの地下鉄を使えば、わずか89ペンス相当の基本運賃(180円)を払うだけで運行本数が驚くほど多く、真新しくてエアコンが効き、時刻表通りにやって来る列車に乗ってあっという間に都心を移動できる。
切符を買うのは簡単だ。では、その株を買うのはどうなのか。
この問いの答えには、ひょっとしたら日本の予想以上だったかもしれない厄介なイデオロギーの対立がからんでいる。
今は株主アクティビズムの時代であるだけに、日本政府が東京メトロ民営化の野望を実現するには、日本が望む投資文化の姿と、上場後は誰の利益のために経営されるのかという2点を明言しなければならないのだ。
東京メトロ民営化の野望
そうした対立はすべて鉄道に関するものだ。
鉄道は日本において最も光り輝く、かつ最も強力な技術崇拝が見られる分野であり、間違いが決して許されない分野だ。
ほかの国々は2024年を選挙に費やす。
一方で、日本は収益性か公的サービスかという、晩期資本主義に典型的なトレードオフに取り組むことになる。
ただし、そこで最も幅を利かせるのは国家的なアイデンティティーだ。
すべてが計画通りに進めば、2、3カ月後にこの問題が浮上することになる。東京メトロは、公的機関が今でも100%の株式を保有している事業会社の筆頭格だ。
民営化にあたっては、株主である日本政府と東京都がそれぞれの保有株を売り出す。
財務省は日本郵政株を公開した2015年以降、ほぼ10年にわたって東京メトロの上場を目指してきた。
政府高官や金融関係者に言わせれば、東京市場に活気がある今は大型の新規株式公開(IPO)の絶好機であり、大型上場案件が不足している東京証券取引所にとっても干天の慈雨になるという。
多くの投資家は、この計画には問題がほとんどないと考えるだろう。
そして、それをさらに上回る数の人々が――利回りに飢えている投資家を中心に――この至宝を購入するチャンスをつかむことは間違いない。