『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第22回「越前の出会い」では、大国・越前の国司に任官された藤原為時が張り切って任務に励むも、あまりの激務で体調をくずしてしまい……。今回の見どころについて、『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)
故事成語「杯酒を以て兵権を釈く」が生まれた背景
「越前は父上のお力を生かす最高の国。胸を張って赴かれませ。私もお供いたします」
いったん淡路守に任じられたものの、任地の変更が行われて越前守に任命された、岸谷五朗演じる藤原為時(ためとき)。
そんな言葉で、吉高由里子演じる、娘のまひろ(紫式部)から激励された為時だったが、確かに適任だったようだ。今回の放送では、着任早々、宋語を用いて宋人たちとコミュニケ―ションをとる為時の姿が見られた。
まったくもって宋の商人たちのパワーには圧倒されるばかりだが、当時の中国の状況を踏まえれば、それだけ活気づく理由も理解できる。
かつては強大だった唐が国力を失っていき、滅びたのは907年のこと。衰退の兆しは日本にまで伝わっていたようだ。894年には菅原道真が遣唐使の廃止を宇多天皇に提案し、採用されている。
唐の滅亡後、華北中原には5王朝(後梁、後唐、後晋、後漢、後周)が、その周辺には10国(前蜀・後蜀・呉・南唐・呉越・閩・荊南・楚・南漢・北漢)が乱立することになった。「五代十国」と呼ばれる時代の始まりである。
そこから実に70年にもわたる混乱期を経て、979年に中国をようやく再統一させたのが、宋である。
今回の放送では、松原客館(まつばらきゃっかん:使節団を迎えるための迎賓・宿泊施設)の通詞である、安井順平演じる三国若麻呂(みくにのわかまろ)が、着任したばかりの為時に「宋人は戦を嫌いますゆえ」と説明する一幕があった。動乱の世が続き、戦には飽き飽きしていたというのは、宋人の偽らざる本音だろう。
当時、皇帝となった太祖は、独自の動きをしがちだった「節度使(せつどし)」と呼ばれる有力貴族たちを、事あるごとに酒宴に招いている。
そして言葉巧みに、彼らから兵権(軍事面を指揮する職権)を奪うということをやっていた。再び「五代十国」のような状態にならないように、地方軍団の兵権を皇帝自身が回収していったのである。このことから「杯酒(はいしゅ)を以て兵権を釈(と)く」という故事成語が生まれている。
そんな宋では、商人たちが勃興。海外とも交易を行い、商業を発展させることで生産力を増大させていった。