芸能活動を休止しているお笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志氏が、1月22日に文藝春秋などに対し、名誉棄損による損害賠償と謝罪広告の掲載などを求めて東京地裁に提訴した。請求額は5億5000万円である。これに対して、攻撃の手を緩めない「週刊文春」は、2月8日発売号で11人目の新証言を取り上げた。
「闘うメディア」と称される「週刊文春」とはいったいどのような組織なのか──。同誌の元編集長で、現在は文藝春秋総局の総局長を務める新谷学氏の著書『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』(光文社)を紐解きつつ、週刊誌に詳しいお笑い芸人の水道橋博士に、週刊文春というメディアの特徴について聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──「ダウンタウン」松本人志さんの、性加害疑惑が連日報道されています。このタイミングで、新谷学さんの著書をあらためて読み、どんなことをお感じになりますか。
水道橋博士(以下、博士):吉本興業の関係者およびテレビの関係者は「全員この本を読みなさい」というのが僕の感想です。松本さんの疑惑が最初に報道された時に、即座に吉本興業が事実無根だと主張したのを見て「悪手すぎる」と思いました。
何がどこまで本当かはさておき「事実無根」なわけがない。文春や新谷さんは負けを含めて裁判慣れしています。「週刊文春」がどういうメディアか知っていたら、あんなことは言わなかったはずです。
僕は文藝春秋から『藝人春秋』という自分の本を出しており(※)、一時期まで文藝春秋の本社を訪れて毎週読み合わせをしていました。週刊誌をどのように作っているのか興味があったし、編集部を覗きたい気持ちもあって足を運んでいたのです。
※2014年から2021年にかけて、水道橋博士は文藝春秋から、芸能界や政界の裏側を独自の視点で語る『藝人春秋』というシリーズ本を出版した(全3巻)。
『藝人春秋』の中で、橋下徹、石原慎太郎、猪瀬直樹の3氏を僕は告発しています。この本の内容は訴訟騒ぎになる可能性もあったので、文春の法務部に内容や書き方など見てもらった経験もあります。
──「週刊文春」はほかのメディアと何が違うのでしょうか。
博士:『藝人春秋』はそもそも文藝春秋のパロディです。その中で一度、文藝春秋の成り立ちについても書きましたが、文春は弱いものいじめをするメディアではなく、権力を監視し、スクープを打つことを根本的な姿勢としています。
通常、出版社にはオーナーである創業家がいるものですが、文藝春秋にはそれがありません。権力者は出版社のオーナーに頼んでスクープやスキャンダルを止めようとしますが、文春にはこの手は通用しない。
文藝春秋は社員たちが会社の株を分けて持っており、報道機関としては非常にまともな構造だと思います。
この本を書いた新谷学さんは、もともと「週刊文春」の編集長をやり、次に文藝春秋総局の総局長になった方です。このポジションは文藝春秋社の各雑誌の編集長たちをまとめる役です。
「週刊文春」は政権のスキャンダルを書き続けてきたメディアで、政権との結託はありません。新谷さんはこの本の中で「親しき仲にもスキャンダル」という言い方で説明していますが、一緒に食事をする仲の政治家であっても、スキャンダルを見つければ必ず報じる。この本では、その基本姿勢について明確に述べています。
──いい言葉ですね。