(山中 俊之:著述家/国際公共政策博士)
熊本県が熱い。2月24日、世界の半導体業界を牽引する台湾のTSMCの熊本工場が開所するからだ。TSMCが台湾外で稼働を始める数少ない工場である。世界的に注目を集めるに違いない。
世界の半導体製造メーカーとして首位に立つ台湾のTSMC。本社は、台湾の新竹市にある。新竹市は、台北から台湾の高鉄(新幹線)で40分ほどの都市。ここには、巨大なサイエンスパーク(新竹科学工業園区)がある。
筆者は2月初めに新竹市を訪問した。サイエンスパークは、緑に覆われて広大である。無料の循環バスに乗って回っても、相当の時間がかかる広さだ。
このサイエンスパークを歩きながら、TSMCの行く末や緊迫化する米中・中台関係に思いを馳せた。本コラムでは、台湾での有識者との意見交換を踏まえ、TSMCの強みや課題について考えていきたい。
よく言われる通り、半導体はいかに微細化したトランジスタをチップに埋め込むかが競争力の源泉である。微細化した方が、多くの情報・データを低エネルギー・低コストを処理できるからだ。
微細化は、現在2ナノメートル量産開始まで到達している。1ナノメートルは、1メートルの10億分の1の大きさである。
新型コロナウイルスの大きさが約100ナノメートルと言われる。ウイルスよりもはるかに小さいトランジスタを作成して、一つのチップに数百万、場合により数億以上埋め込むことを各社が競っているのだ。もはや人手の領域というよりも神の領域と言っても良いだろう。
この微細化で圧倒的な開発力を持っているのがTSMCだ。ファウンドリーと言われる受託生産方式で、莫大な投資を行い、インテルやサムスン電子などのライバルに打ち勝っている。
半導体は石油に代わる重要物資であるとも言われる。実態は、石油よりもはるかに経済ビジネスに影響を与える超重要物資だ。なぜか。石油と対比しながら考えたい。