結局、彼女は、覚せい剤営利目的有償譲渡・使用で逮捕され、4年半を刑務所で過ごすことになる。初めは興味本位で始めた覚せい剤が、彼女の人生から、夫や子ども、社会的信用まで、何もかも全てを奪うこととなった。
でも、やっぱり出来へんねん
覚せい剤常習者は女性が多いように思える。筆者は、更生保護の仕事で女性対象者の就労支援依頼が来ると、「今度は、シャブですか、窃盗ですか」と、観察所の担当主任官に尋ねるくらいである。そして、シャブの方には、(絶対内緒で)次のように尋ねる。「口外はせんけん、教えちゃってん。ここ出たらシャブ辞められるかいな」と。半数の方は「いや、機会があったら、また行くね(覚せい剤をやるね)」という回答が返ってくる。中川氏の証言も、覚せい剤の再犯を肯定するものである。
「女子の大学(刑務所)はシャブ関係が最も多いな(こいつらは、あまり反省の色がないんが特徴や。パクられたんは運がなかったんや、まあ、他人には迷惑かけてへんからな・・・そうした言い訳かまして、虫わかしてるん[再び覚せい剤を使用したいという思いを募らせている人]が多い)」
中川氏は、覚せい剤で全てを失った。現在は、運送会社で深夜の荷下ろしを続けながら、覚せい剤中毒者などの更生に寄り添い、衣食を供し、家に泊めてやったり、仕事を紹介したりと、ボランティアで立ち直りの伴走支援をしている。しかし、薬物からの立ち直りは、立ち直った経験者でさえ難しいという。全てを失って、マイナスから人生を再スタートした中川氏の言葉は重い。彼女は以下のように述べ、社会に警鐘を鳴らす。
「やっぱ、みんなちゃんとしたいねん。ちゃんと生きていきたいねん。ホンマは。根本は、せやねん。もう、もっかい(もう一回)人生やり直せるのやったら、もっかい頑張ってやり直そう、みんな、そう思うてる。絶対に・・・でも、やっぱり出来へんねん」
シャブにまみれたオンナたち――組長の妻
つぎに紹介するのは、『組長の妻、はじめます。』(新潮社)の亜弓姐さんのシャブにまつわるエピソード。現在では一児の母であり、保育園の行事にもママ友と参加し、一見、極妻には見えないが、過去は50人以上の男の子分を率いる車窃盗団のボスであり、裏社会で知らないヤツはモグリと言われた人物である。
「公園で木の実を拾うような感覚」で、車泥棒を繰り返し、逃亡先で逮捕された取り調べの際は、男子LB級刑務所(暴力傾向が進んだ、長期受刑者)に留置されるなど、前代未聞のワルであった。「そんな彼女に誰がした」と聞かれたら、犯人はどうもシャブのようである。
亜弓姐さんの場合、十代の頃に同じ町内の男友達に言った次の一言が、シャブ地獄の入り口となる。
「ちょっと、スナックで働きようんやけど、ヒールが足食って痛いんよ」と。男友達は、アジトに彼女を連れて行き、注射器とパケ(パケット=ビニールの小袋)を出してきた。それがシャブだと直ぐに合点したが、亜弓さんは「打って」と、自ら腕を差し出した。
懲りない女と笑ってください
「針がスルスルと入っていきます。するとどうでしょう。ヒリヒリしていたカカトの痛みは一瞬で無くなり、髪の毛が天井に届くような感覚、何より、耳かきのフワフワが、身体中の血管内を巡っているようなゾクゾク感、切れ長の目まで大きくなって大満足。思わず、『気持ちイイワー』と言うたことを覚えています・・・このシャブ初体験は、女の初体験とは異なり、忘れられない、何とも心地よい余韻を残しました」
彼女が率いる窃盗団のアジトは、ラブホの2階と3階を「大人借り」し、代金はシャブの現物払い。もっとも、「悪党はもちつもたれつ」の関係だから、自発的にラブホの従業員になって客室の夜食注文をデリしたり、客室の掃除を手伝ったりしていたそうである。その見返りに、従業員のオッチャンやオバチャンとも親しくなり、「今日はここに居ったら寒いよ(警察が巡回にくる日だから、今日は隠れていなさい)」とか、情報をくれるようになった。悪党の底が知れないエピソードである。