民放連が1980年代に制作した啓蒙広告に「覚せい剤やめますか それとも 人間やめますか」というコピーがある。これは、シンプルに覚せい剤の恐ろしさを表現していた。以下、組長の娘と、組長の妻からの証言を紹介する。彼女たちの語りから、シャブの恐ろしさをリアルに理解して頂けると考える。
シャブにまみれたオンナたち――組長の娘
最初に紹介するのは、拙著『組長の娘-ヤクザの家に生まれて』(新潮文庫)の主人公・中川茂代さん(仮名)である。関西の名門博徒の家に育った彼女は、十代の頃から覚せい剤にハマり、ツネポン(常習者)となった挙句、営利目的有償譲渡の罪名で赤落ちしている(刑務所にはいっていた)。本書中では、シャブ常習者の悲哀がリアルに生々しく語られている。
「段々と深みにはまっていったんは18歳くらいの時期からやな。何の深みかいうたら、薬物やねん。シャブ打ったり、大麻やったりしよってん。まあ、周りがやりよるから、初めは軽い気持ちからや。せやかて、一度味覚えたら、猫にマタタビやったな。抜けられやせん」
何とも簡単で、オソロシイ最初の一歩である。
シャブ中毒者の泥沼
覚せい剤常習者となった当時の模様を、中川さんは次のように回想する。
「シャブ屋してるから、カネには困らんやってんな。当時は、1g(ワンジー)で7万円位になってたしな。しゃあかて、常にビクビクしてたな・・・誰見てもポリに見えんねん。その頃は、もうドロドロや。ポン中(覚せい剤中毒者)しか分からんことやけどな、この時期、うちは血管が潰れてしもて針が入らんようになってたんや。腕だけやなく、脚の血管からも入れたもんや。どうしようもない時は、ウオーリー(仮名)いう専属の女の針師(覚せい剤の注射を補助することで報酬を得る者)を呼んで入れてもらいよったんやが、サウナ入って血管出しても針が入らんときあんねん。もう血みどろになるんやがな、それでもクスリ入れたいねん。どないするかいうとな、注射器に逆流した血みどろの液を冷凍して備蓄しておくんや。で、注射器の針をバーナーで炙って、先を丸くしてから、解凍したクスリを、ケツの穴から注入するしか手がないんや。ここまで来たら、シャブ中もかなりの筋金入りや」