円相場は21日午前、一時148円40銭をつけた(写真:共同通信社)
  • 日銀が公表した4〜6月期の資金循環統計を見ると、円貨性資産における株式・出資金や外貨性資産の比率が上昇している。政府が旗を振る「貯蓄から投資」を踏まえた動きだ。
  • その動きはまだ大きくないが、名目賃金が物価高を相殺するほど上昇しないと見切った向きは資産運用によってカバーしようとするだろう。その場合、対象となるのは米国株を筆頭とした海外資産だ。
  • 巨額の金融資産を持つ高齢者層が物価高に対する資産防衛で外貨性資産に雪崩を打てば、それは円売り要因となる。家計部門の円売りは、日本経済に潜む巨大なテールリスクである。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

「貯蓄から投資」の胎動

 日銀から9月20日に公表された4~6月期の資金循環統計は、示唆に富む内容だった。

「資産運用立国」の旗印の下、政府・与党は家計部門の「貯蓄から投資」を後押しすることに躍起だ。四半期に一度公表される資金循環統計は、その進捗度を測る有力な目安となる。今後、政策担当者においても注目度は高い統計として見られていくだろう。

 実際に最新の統計を見てみよう。

 2022年12月末から2023年6月末の半年間における家計金融資産の変化を見ると、依然として日本の家計部門における保守的傾向は根強いものの、わずかではあるが変化の胎動もあった。

 2023年6月末時点で家計金融資産は約2115兆円にのぼる。そのうち円貨性資産の占める割合は約97%(2041兆円)、そのうち現預金(除く外貨預金)が約53%(1111兆円)であった。これだけを見れば、日本の家計部門の運用傾向が保守的であるという現状はいまだ健在だ(図表①)。

【図表①】


拡大画像表示

 しかし、目につく動きもあった。

 例えば、春先以降の株高を背景として円貨性資産における株式・出資金の比率が10.5%から12.7%まで上昇している。これは金融バブルと言われた2006年1~3月期につけた過去最高値(12.9%)に肉薄する水準であり、近々にピークを更新するかどうかは注目されそうである(図表②)。

【図表②】


拡大画像表示

 また、筆者が試算する外貨性資産についても3.2%から3.5%と、若干ではあるが上昇している。これは金額にして10兆円程度だが、日本の経常黒字が今や年間11兆円程度まで落ち込んでいることを思えば、小さな額とは言えない(しかも、その黒字のほとんどが海外投資から得た利子・配当、つまり円に戻ってこない第一次所得収支黒字だ)。

 ちなみに、2000年1~3月期の外貨性資産の比率は0.9%だったので、過去20年余りで比率が4倍になったことになる。これは金額にして60兆円程度の変化になる。