「オバマ政権の経済再生策は効果を発揮しつつある」サマーズNEC委員長

90年代は日本に無理難題、今や・・・サマーズ氏 〔AFPBB News〕

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 危機に陥った国の経済は、国際機関や大学のエコノミストの「実験台」ではない。マクロ経済学的には「適切」と考えられる政策でも、国民生活や企業経営というミクロの観点からは、耐え難い苦痛や不公正感をもたらすケースもある。1997~98年のアジア危機で取られたIMFの対応は、今なお批判されている。これは、IMFが融資条件として危機最中に激痛を伴う構造改革を短期間で実施するよう迫り、当事国に半ば強制したからだ。

 1990年代の日本や現在の欧米諸国では、銀行への公的資金による資本注入や破綻処理をめぐり、納税者から強い拒否反応が起こっている。経済全体から見れば、公的資金を損失リスクにさらしてでも、金融システムを安定化するのが望ましい。だが、個々の納税者レベルでは、「無謀なビジネスをしていた金融機関を、なぜ税金で救うのか」というのが素直な感情だろう。

 実は、金融機関の破綻前に先手を打ち、公的資金を投入したほうが、コストやリスクは低くて済む。一方、庶民感情を重視して資本注入の際に経営責任を厳格に問えば、金融機関は「最後の最後まで」投入を申請してこない。こうしたジレンマがあり、金融システム安定化のための公的資金投入は必然的に政治的争点となる。とりわけ日本や米国のような民主主義国家では、投入の適正な規模や時期、方法の見極めが極めて難しい。

「歴史の皮肉」、批判浴びるサマーズ&ガイトナー

米、官民共同の不良債権処理計画を発表へ

孤軍奮闘、ガイトナー財務長官〔AFPBB News

 スピードや方法の違いこそあれ、現下の金融危機で米国当局が直面する課題は、10年前の日本と本質的に変わらない。1990年代後半、不良債権と問題銀行の迅速かつ徹底的な処理を、対日要求したのが当時の米財務省高官サマーズ、ガイトナーの両氏。今、2人がそれぞれ国家経済会議(NEC)委員長、財務長官の立場で、「危機対策は場当たり的で不十分」と批判を浴びているのは、歴史の皮肉としか言いようがない。

 つまり当時の米国は、政治的に実行が難しく効果も不透明、自国では二の足を踏むような施策を、外国には執拗に迫っていたわけだ。しかし、それこそが国際交渉の現実。1970年代の「日独機関車論」や1987年のルーブル合意後の長期金融緩和など、「国際協調」の美名の下に米国から困難な政策実行を要求され、その副作用に日本は苦しんできた。国際交渉では、摩擦を恐れて政策面で安易に妥協すべきではない。

 ところで、日本のメディアは「日本の『失われた10年』のようになってはならない」という、オバマ大統領の演説全体から見れば「枕詞」にすぎない部分を針小棒大に伝えている。「かつて日本の対応が遅かったのに比べて、今回の米国は速い」というお得意の自虐報道だが、こうした見方はあまりに皮相的と言わざるを得ない。

 今回の米国の対応が迅速で方法も異なるのは、危機の震源が「証券化商品」という市場性商品のため。つまり、時価会計で評価損失が即時計上されるため、保有し続けて状況の改善を待つ方策が取れない。この点が、バブル崩壊後の日本の銀行貸し出しとは本質的に異なる。むしろ、事態が当初の楽観的予想から刻々と悪化し、対応が後手に回るという点では、日米両国の対応はむしろ共通している。

 危機対応の中身も、当時の日本と現在の米国は相当似ている。例えば、米国が始めた「ストレステスト」は、その結果次第で必要な公的資金注入を行うもの。日本が「特別検査」を行い、1999年3月に踏み切った資本注入を髣髴させる。

 また、米財務省が3月23日発表した、最大1兆ドル規模の金融機関からの不良資産買い取りの狙いは、2000年代初めに日本が主要行への特別検査を通じて促進した不良債権処理と共通する。米銀経営陣に対する報酬制限は邦銀の責任明確化の一形態だし、当時の日本と同様に中小企業・地域金融の円滑化策も盛り込まれている。

「失われた10年」、再評価の論調も

 その一方で、ガイトナー財務長官やバーナンキ連邦準備制度理事会(FRB)議長は、当局の組織再編を含む金融規制の構造改革に強い意欲を示す。この点でも、金融監督庁(現在の金融庁)を創設し、金融監督・破綻処理の枠組み強化を危機対応と同時断行した、日本の軌跡を追う形になっている。短期的に危機対応、中期的には規制改革。この双方を実施する必要性は、3月14日のG20コミュニケも確認している。今回の危機対応に当たり、実は日本のかつての経験が有用な教訓になるのだ。このことは、10年前の日本の金融危機を当局者として実体験した佐藤隆文・金融庁長官が講演で体系的に論じている(http://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/index.html)。