アルツハイマー病の最新解明状況などについて先週紹介したが、今回は引き続き石浦章一教授に、治療法や早期発見法、予防法などについて解説してもらう。

 病状は、脳細胞が減少するにつれて変化する。初期症状としては、物をしまった場所や約束事を忘れたり、つじつまが合わないことを話すなど、異変が生じる。

「間違った記憶はなぜ起こるのか」、脳の働きをMRIで分析

脳の様子をMRIで撮影〔AFPBB News

 進行すると、通勤路を間違えたり、食事を済ませたにもかかわらず「食事はまだ?」と催促したり、乾いた洗濯物を再び洗濯機に入れるなど、明らかにおかしな行動が増える。重症化すると、人格が変化し、感情的に不安定となり徘徊を始める。運動野が冒されると寝たきりとなる。

 「身近に接する周囲の者が『何か最近おかしいな』と思い始めた頃は軽度認知障害の段階なので、治療はその時にすぐに始めるべきです。脳神経細胞が数多く死滅してから治療を始めても効果は期待薄ですから」(石浦教授)

 なお、人の名前を忘れるというのは、心配いらないそうだ。

 「人間は様々な情報を記憶しますが、人の名前や固有名詞というのは、よほど意識して記憶しないと忘れるものです。ただ親や妻子の名前を忘れると危険です」(石浦教授)

根本治療は、ワクチン療法か?

 進行した病状に対する効果的な治療法は残念ながらまだないが、早期の段階では、アリセプトという薬が効果がある。これは、脳神経から放出されるアセチルコリンという物質の分解を抑制するもので、脳機能の改善が認められている。また、非ステロイド系の抗炎症剤が効く場合もあるが、いずれも進行した病状への決定的な治療ではない。

 今現在、老人斑を抜本的に除去する治療としてはワクチン療法が最も有効だというのが医学界の主流だ。老人斑を作り出すアミロイドベータタンパク質を注射して、抗体を体内で作らせて、それによってアミロイドベータタンパク質を除去する治療法だ。

 期待は大きかったが、2002年に海外でこの治療を行ったところ、300人中18人が髄膜脳炎を発症した。また、既に認知症が進行した人に用いたため認知機能の改善があまり認められなかったこともあり、二の足を踏んでいるのが現状である。ただし、亡くなった患者さんの脳内を調査すると老人斑は確かに減少していたので、効果があったことは分かっている。

 そこで石浦教授が取り組んでいるのが「食べるワクチン」の研究だ。

 「注射では副作用がありましたが、経口摂取ならば大丈夫だろうということが分かってきました。植物にベータアミロイドタンパク質を作らせて、これを食べるのです。動物実験では非常によく効きました」(石浦教授)

 この手法を簡単に実現できるのが、ピーマンとトマトで、現在は、お米で食べるワクチンを作り出す研究を続けており、これが実現すると、ご飯を何度か食べるだけで体内にベータアミロイドタンパク質の抗体ができることになる。