- 経済危機が続くミャンマーがロシアに急接近している。同国に経済支援を仰ぐため、プーチン大統領肝いりの「サンクトペテルブルク経済フォーラム」に代表団を送るなど秋波を送っている。
- ロシアの電子決済システム「ミール」の導入をテコに、輸出の拡大やロシア人観光客の誘致に期待を寄せる。
- 中国による経済支援が期待できない中、ロシアとの距離を詰めるミャンマーだが、ウクライナ侵攻によってロシア自体の国力が低下している。「敵の敵は味方」で近づくミャンマーだが、果たして思惑通りに行くだろうか。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
まだ世界がコロナ禍にあった2021年2月1日、ミャンマーで国軍がクーデターを企図し、全権を掌握した。そして、ミン・アウン・フライン総司令官が国家行政評議会議長に就任し、現在に至るまで最高指導者として君臨している。
同時にミャンマーは経済危機に陥り、21年度(20年10月〜21年9月)の実質経済成長率は20%近く減少した模様だ。
その後もミャンマーで経済危機が続いていることは、ミン・アウン・フライン総司令官が率いる現政権も認めるところである。しかし、ミン・アウン・フライン総司令官は、経済危機はアウン・サン・スー・チー初代国家顧問が率いた国民民主連盟(NLD)による前政権の失政だと繰り返し主張し、責任転嫁に終始している。
ミャンマーでは2023年度(22年10月〜23年9月)に入り、経済統計の公表が遅れている。社会経済の混乱に鑑みれば、経済統計の精度も落ちているはずだ。こうした中では為替レートが、経済危機の実情を映し出す指標として有用となる。通貨チャットの対ドル相場は、軍政が始まって以降、下落に歯止めがかからない(図表1)。
【図表1 通貨チャットの対ドル相場】
この間、ミャンマー中銀は為替介入や資本規制の強化を通じ、通貨の安定に努めてきた。しかしながら、中銀の参考レートと市中の実勢レートの乖離を埋めるに至らず、中銀が公表する実勢レートも2022年後半から参考レートとのズレが拡大している。
市中の両替商では、チャットの対米ドルレートはさらに割り引かれている模様だ。
このように経済危機の渦中にあるミャンマーだが、その同国が今、経済支援を仰ごうとしている相手が、ウラジーミル・プーチン大統領の下でウクライナに軍事侵攻し、欧米日との間で関係が急激に悪化したロシアである。
つまり、ミャンマーはロシアを「敵の敵は味方」とみなして、経済支援の要請を試みているわけである。