今年4月13日、大陸間弾道ミサイル「火星18」の発射実験を視察する金正恩総書記と娘のジュエ氏(提供:Office of the North Korean government press service/UPI/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

食糧確保が困難なのに

 北朝鮮が核ミサイル開発を自制する可能性はない。米国と中国・ロシアとの対立によって北朝鮮は、中ロという後ろ盾を得て、核ミサイル開発を加速させている。しかも、単に技術的に開発するだけでなく、実用化に向けた動きを示している。それが5月31日に失敗した軍事偵察衛星の発射である。

 北朝鮮住民が食糧難に喘いでいても、金正恩氏は、核・ミサイルの開発を国威発揚と民心の離反を防ぐための政治扇動の側面を重視している節がある。そのため、貴重な外貨で食糧を購入するよりも、核・ミサイルの開発資金に充てている。

 北朝鮮住民の食糧難は、1990年代前半に数十万、数百万の餓死者を出した「苦難の行軍」の時期に似てきており、金正恩政権が核・ミサイルの開発と住民に対する食糧の確保の両立を図れるか試練の時を迎えている。

 今、北朝鮮の核・ミサイル開発の問題を対話で解決できると考えている専門家は少数であろう。北朝鮮の善意に頼ることなく、核・ミサイル開発のための資金源をいかに押さえ込むか、大量破壊兵器開発のための核物質の確保、新たな技術導入をいかに遅らせるかがカギであろう。