(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
アメリカを訪問した韓国の尹錫悦大統領は、4月26日(いずれも現地時間)の首脳会談に引き続き、同日の公式晩さん会出席、27日の議会上下両院合同演説と、次々と主要行事をこなし、30日に帰国した。
尹大統領の外交に対しては「失言が多い」、「譲歩しすぎる」として国内の評価が高くなかった。しかし、それは同氏が元来政治家ではないため、政治的発言よりは率直に自分の考えや信念を述べること、国益を考え韓国国内では人気のない譲歩も行うことが、野党・民主党や強硬な市民団体のアラ捜しを受けていたためのようである。
しかし、今回の尹大統領の米国国賓訪問を通じ、韓国の主張や行動は、米国の指導層から自由・民主主義世界の中枢国家としての敬意を受け、尹大統領の発言や行動も指導者として格式のあるものであったとの評価を得たようである。
その反面、韓国は今般の訪問を通じ、自由主義陣営の主要国家として行動することで、中ロのもっとも敏感な部分に触れることになり、両国の激しい反発を招く結果となっている。また、北朝鮮に対しては、米韓首脳会談で採択した「ワシントン宣言」にて、北朝鮮による韓国への核攻撃に対しては「即時に圧倒的な対応」をとることで合意し、戦略原子力潜水艦など米軍の戦略資産を韓国へ定期的に展開することも盛り込まれた。
ただ逆にこうなってくると、これに反発する北朝鮮がいっそう急速な核開発や偵察衛星の発射などに着手する可能性も懸念される。
「グローバル中枢国家」への確実な一歩
今回の尹大統領の訪米ではっきり言えることがひとつある。それは、これまでの文在寅外交の大幅な軌道修正をもたらした、ということだ。もちろんその得失を巡って、国内では支持する声もある一方で、野党・民主党や左派系メディアからは強い批判があがっている。
しかし、文政権時代に過度に中ロ朝に寄り添ってきた外交は、韓国の安全保障を一層危うくしており、経済的にも中国との関係はむしろ希薄化している。韓国にとって、本来あるべき外交に戻ってきている、と見たほうが正しい。