海上自衛隊創設70周年を記念した国際観艦式で海上自衛隊員から敬礼を受ける岸田文雄首相(資料写真、2022年11月6日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 防衛費増額の議論が大詰めを迎えている。国家の安全に関する措置は、議論を深めた上で決断する必要があるが、政府・与党には年内に決着せざるを得ない事情がある。加えて、今回、議論の対象となっている増額分には、自衛隊の装備に関するものだけでなく、インフラ整備など従来型の予算も含まれており、一部では予算分捕り合戦の様相を呈している。(加谷 珪一:経済評論家)

12月に入って一気に議論が進展

 岸田首相は2022年12月5日、財務・防衛両大臣と会談を行い、2023年度から5年間の防衛費について、総額で43兆円を確保する方向で調整を行った。この会談の後、7日には自民・公明両党が協議を行い、財源に関して、歳出改革や剰余金でカバーできない分については増税で賄うことで一致。翌8日には岸田氏が増税措置の検討を自民・公明両党に指示するなど、一気に政府・与党内での議論が進んだ。

 防衛費の増額をめぐってはGDPの1%が基準となっており、現時点で約5.4兆円の規模がある。GDPの2%であれば、10兆円を超え、現在の2倍となるが、当面は現状の1.5倍程度の水準で落ち着く可能性が高くなっている(6年目以降については2倍の規模になると予想される)。

 近年、中国による脅威が急激に増しており、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、ロシアの対日方針も大きく変化した。中ロは軍事的に接近するようになっており、11月30日には、中ロの爆撃機が共同で日本の近辺を飛行し、中国の戦闘機がこれに合流するなど、これまでにないレベルの活動を行っている。中国やロシアの軍事的脅威に対抗するということであれば、防衛費も相応の増強が必要との解釈になる。

 一方で、今回の一連の議論は、数字ありきとなっており、必要な経費の積み上げになっていないとの指摘も出ている状況だ。また、議論があまりにも拙速であり、どうしても年内決着を目指したいとの政治的思惑も透けて見える。