潜水艦から発射されたトマホーク(写真:レイセオン・テクノロジーズ)

「12式改」完成まで待てない危機感

 自民・公明の与党は自衛隊の「反撃能力」保持合意に漕ぎつけ、今後安保関連3文書にも正式に盛り込むことになる。

 つまりは敵の射程外から撃てる「スタンド・オフ兵器」の“解禁”で、仮に某国が弾道ミサイルで日本攻撃の準備に入った場合、「自衛の範囲」との解釈で発射直前にミサイル基地や指揮管制本部を長射程ミサイルで叩ける、と法的に理論づけたわけで、「元を絶たねばダメ」の発想だ。

 これを担う具体的アイテムとしては、すでに陸上自衛隊が装備する国産の「12式地対艦誘導弾(ミサイル)」の射程距離を200kmから一気に900km(1500kmとの説も)に伸ばした「12式改」(仮称)の開発を目指しているようで、この他にも国産・外国製を織り交ぜ4、5種類のスタンド・オフ兵器の保有を想定している。

*当サイト記事『中国・北朝鮮のミサイルへの反撃を狙う、国産「改・長射程ミサイル」の威力』(2022年9月2日)を参照

 そんな中、11月末に一部メディアが「トマホーク巡航ミサイル500発購入へ」と報じるなど、スタンド・オフ兵器の周辺は目まぐるしく変化している。防衛のあり方がガラリと変わるだけに、いま一度「反撃能力」のメリットや課題・問題点に迫ってみたい。

 トマホークはアメリカ製の巡航ミサイルで、「湾岸戦争」「イラク戦争」「アフガニスタン侵攻」など実戦経験も多く、頻繁にアップデートされた「ピンポイント攻撃」の代表格でもある。原理的にドローン(無人機)に近く、ミサイル型の本体に翼を持ちジェット・エンジンで時速900km弱を発揮、最大射程1200~3000kmを誇る。現在軍艦や潜水艦から撃つ海洋発射型(SLCM)と試作中の地上発射型(GLCM、車載型)があり、米英海軍などが採用している。

イラク戦争で使用されたトマホーク陸上攻撃ミサイル(2003年3月、写真:Mate 2nd Class Richard Moore/U.S. NAVY/ロイター/アフロ)

 日本は12式改の開発を急ぐが、完成は早くて2020年代後半と見られることから、「反撃能力」不在となる数年間のギャップを埋めるトマホークに白羽の矢を立てたらしい。多少改修は必要なものの海上自衛隊の現用護衛艦の大半が搭載するミサイル垂直発射装置(VLS)や、潜水艦の魚雷発射管がそのまま使えるのは魅力だろう。

米海軍のオリバー・ハザード・ペリー級駆逐艦に装備されるVLS(ミサイル垂直発射装置。トマホークのほか、対空、対艦、対潜水艦ロケットなども発射できる万能発射機(写真:米海軍)

 北朝鮮の弾道ミサイル試射やロシアのウクライナ侵略、中国の3隻目の空母進水など、日本周辺の軍事的脅威は高まるばかり。さすがの日本政府も「12式改の完成まで待っていられない」と慌てているようだが、こんな深読みをする識者もいる。

「ウクライナ支援では西側諸国が一致団結して武器支援しているにも関わらず、『憲法違反』の一点張りで頑なに拒む一方で、ロシアにある天然ガス権益『サハリン2』を温存するなど、あまりにのんきな日本。その姿にアメリカ側が『日本有事の際に本当に助けるかどうか』とやんわりとプレッシャーをかけたので、“免罪符”とばかりに慌てて米製トマホークの大量購入を表明したのではないか」

 ちなみにトマホークは1発2億円と推定され、500発購入となれば単純計算で軽く1000億円は超える。しかも「2億円」はどうやら米軍向け価格なので、実際はその数倍になるだろう。