(英エコノミスト誌 2022年10月29日号)

中国は“りんご”の生産地として最適ではなくなりつつある

新型コロナウイルス、コスト、地政学を背景に、米アップルが機器の製造と販売を中国国外へと移している。

 インドのチェンナイからベンガルールに向かう、耳をつんざくほどうるさい埃っぽい道沿いに、看板も掲げられていない巨大な建物が3棟建っている。

 内部には道路の騒音は届かず、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が持ち込んだハイテク生産設備がずらりと並ぶ。

 車で少し走ったところには、同じく台湾のハイテク企業、和碩聯合科技(ペガトロン)が巨大な自社工場を新設した。

 フィンランドの電子機器メーカー、サルコンプもさほど離れていないところに工場を建てた。

 さらに西に行くと、インドの大手財閥タタ・グループが運営する面積500エーカーのキャンパスがある。

 厳重に警備されているこれらの施設の共通点は、同じ企業を顧客にしていること。

 地元で「ザ・フルーツ・カンパニー」と呼ばれている、何かと厳しい要求をする秘密主義の米国企業だ。

中国への賭けで急成長したアップル

 インド南部で工場が次々に建てられていることは、世界最大のハイテク企業が新たな局面に入ったことを物語る。

 過去20年間におけるアップルのケタ外れの成功――売上高は70倍、株価は600倍にそれぞれ増加し、市場時価総額は2兆4000億ドルに膨れ上がった――は、中国に大きく賭けた結果でもある。

 同社は中国の工場を頼りにし、中国の消費者の歓心を買おうとしてきた。今では製品の90%超を中国で生産しており、売上高全体の4分の1を中国で計上した年も何度かあった。

 しかし経済の変化と地政学的な変化ゆえに、アップルは大急ぎで中国とのデカップリング(分離)を始めざるを得なくなっている。

 中国に背を向けることは同社にとって大きな方針転換であり、世界経済におけるさらに大きな変化も象徴している。

 アップル製品のパッケージには「アップルがカリフォルニアで設計」とうたわれているが、製品そのものはブラジル北西部のアマゾナス州から中国の浙江省に至るサプライチェーン(供給網)沿いで組み立てられている。

 その中心は中国で、アップルのサプライヤー上位150社が生産施設を稼働させている。

 製造を他社に委託するアプローチを切り開いたのは、2011年に最高経営責任者(CEO)に就任するまでオペレーションの責任者を務めていたティム・クック氏だ。

 中国を頻繁に訪れていたクック氏は中国政府と良好な関係を維持しており、アプリを削除せよとか、中国のユーザーのデータは中国国内に保管せよといった要求に応じてきた。

 こうしたデータは中国当局が利用できるようになっている。