文在寅前大統領(左)と李在明「共に民主党」代表(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 今年5月まで権力の座にあった文在寅(ムン・ジェイン)政権の中心人物と、野党となった「共に民主党」の現代表・李在明(イ・ジェミョン)氏に、検察の捜査の手が迫っている。検察は文政権大統領府が北朝鮮に配慮するあまりに行った職務放棄と、李在明氏の選挙に関する不正に照準を合わせた捜査を加速させている。

 捜査の進展具合によっては、韓国の最大野党・共に民主党は甚大なダメージを受けることになる。

北朝鮮による元水産庁職員射殺・死体遺棄事件で元国防部長官らを逮捕

 まず文在寅政権の職務放棄事件から触れていこう。

 ひとつは、2020年9月、韓国海洋水産部職員だったイ・デジュンさんが黄海(西海)において、北朝鮮軍の銃撃により死亡し、遺体を焼かれてしまった事件に関するものだ。

 当時、文在寅政権は「自分の意思で越北した」と意図的に決めつけ、イさんが行方不明となった翌日、北朝鮮側の海域で発見されたという報告を受けながらも適切な救助措置を取らなかったという疑惑が浮上していた。

 この疑惑に関し、10月22日、韓国の裁判所は、徐旭(ソ・ウク)元国防部長官と金洪煕(キム・ホンヒ)元海洋警察庁長の対する拘束令状を発出した。2人には、イさんが自主的に越北(北朝鮮亡命)しようとしたという結論を出す過程で、公文書を偽造したり、関連情報を削除したりするなど、職権を乱用した容疑がかけられている。

 この疑惑に関して文在寅政権時代にはその解明が進まなかったが、尹政権になってから、「文在寅政権によって捏造されたものであり、イさんが自主的に越北を試みたとは見ることができない」と結論付けられていた。仁川海洋警察と国防部はともにイ・テジュンさんについて「自分の意志で北朝鮮に向かったと断定する根拠はない」「殺害された公務員が越北を試みたと推定されると発表したことで国民に混乱を与えた」との発表を行ったのだ。

 文政権は、イさんの越北を主張することで、韓国国民の外交保護権を放棄し、北朝鮮の残虐行為の追及を行わないことにしたと見られている。