©2022 映画『アイ・アム まきもと』製作委員会

 納棺師が主人公の映画『おくりびと』が流行っていた頃、父を亡くした。『おくりびと』で納棺師の仕事がフィーチャーされていたこともあったのだろうか。納棺師の方が見事な手捌きで、真っ白な綿を使って父の遺体にみるみる裃の装束を着せていき、これが本物の仕事なのかとしばし悲しみを忘れて、圧倒された。

『おくりびと』の影響はあったのか、その後、「どう送られたいか」にこだわる人が増えたように思う。宗教色を排除し、故人の好きな曲をかけたり、演奏したりする音楽葬。故人の趣味だったテイストを参加者で味わうワイン葬やコーヒー葬。すっかり認知された感のある宇宙葬。故人の作品を展示する美術葬というのもあるらしい。ところが新型コロナウイルスが感染拡大すると、葬儀はコンパクト化。家族だけで済ませたり、お葬式をしないことも珍しくなくなった。

 映画『お葬式』のようにちょっと前なら、自宅でのお葬式が一般的だった。世相を反映し、時代と共に変化し続ける、送り方。

『アイ・アム まきもと』はまさに今の時代の『おくりびと』。どう送りたいか、どう送られたいか、今一度、考えさせられる作品だ。

市役所の「おみおくり係」を阿部サダヲが好演

 小さな市役所に勤める牧本の仕事は孤独死した人を無縁墓地に埋葬する「おみおくり係」。身寄りのない人が亡くなると、彼はルーティンのように、その人の家に行き、遺影にする写真を探し出し、お葬式を手配する。その間、家族を探して、連絡を取る。

©2022 映画『アイ・アム まきもと』製作委員会

 ただし、一人で亡くなる人には何かしら事情がある。たいていの場合、家族と縁を切っており、遺族に連絡しても葬儀に参加するどころか、遺骨を引き取りにくる人も少ない。

 それでも牧本は故人の宗派を調べ、一人でお葬式をあげ、いつ彼らの気が変わってもいいように遺骨を保管し続ける。

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