筆者は、2014年に生起したウクライナでの親ロシア派騒乱は典型的な間接侵略の事例であると見ている。
ロシアは、クリミア州、ドネツク州およびルハンスク州の親ロシア派に対して、教唆・扇動するとともに軍事的支援を与え、反乱を起こさせた。
結果、クリミアはロシアに併合され、ドンバス地方の親ロシア派勢力は「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の建国を宣言するに至った。
そして、2022年2月24日、ロシアはウクライナに直接侵略したのである。
このロシアのウクライナ侵攻は、どの国でも間接侵略あるいは直接侵略される可能性があることを気づかせてくれた。
ところで、自衛隊法第3条(自衛隊の任務)から直接侵略と間接侵略が削除されたことを知っている日本国民は少ないであろう。
なぜなら、いわゆる安全保障法制整備の際に、国会やメディアにおいてあまり議論されずに改正されたからである。
自衛隊法第3条は自衛隊の任務を定めた重要な条文である。
改定前には「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略および間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする」と規定されていた。
筆者は、これはよくできた条文であると思う。
防衛の主体は“国家”であり、防衛の目的は“国の平和・独立・安全”であり、防衛の客体は“直接侵略・間接侵略”であり、防衛手段は“自衛隊”であることが明確に示されている。
つまり、「何から何を守るか」が明確であった。この場合は、直接侵略・間接侵略から平和・独立・安全を守るのである。
改正後の条文は「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする」と規定された。
防衛の客体であった直接侵略・間接侵略が消えてしまい、「何から何を守るか」が分からなくなった。
以下、本稿では、外国が関与しているのかどうかの事態認定が難しい間接侵略について述べてみたい。
さて、自衛隊の任務から間接侵略が削除されたということは、諸外国から日本に対する間接侵略の脅威はなくなったのであろうか。
いや、そうでない。国籍を異にする外敵や同国籍の内敵もいる。
外敵としては北朝鮮、中国およびロシアの工作員などが考えられる。北朝鮮、中国およびロシアは、現在、日本国内において様々な形で対日有害活動を行っている。
対日有害活動とは、外国から日本に対して行われ、日本に害をなすと考えられる様々な行為の総称であり、日本でのスパイ活動や、拉致などの対日工作、安全保障関連物品の不正輸出などが含まれる。
その実態を警察白書(令和3年)は次にように述べている。
北朝鮮は、我が国においても、潜伏する工作員等を通じて活発に各種情報収集活動を行っているとみられる。
中国は、諸外国において活発に情報収集活動を行っており、我が国においても、先端技術保有企業、防衛関連企業、研究機関等に研究者、技術者、留学生等を派遣するなどして、巧妙かつ多様な手段で各種情報収集活動を行っているほか、政財官学等の関係者に対して積極的に働き掛けを行っているものとみられる。
ロシアは、世界各地でロシア情報機関の関与が疑われるスパイ事件が摘発されている中、我が国においても、ロシア情報機関員が、大使館員等の身分で入国し、情報収集活動を活発に行っている。
上記の工作員は、本国からの指令によりいつでも破壊活動などを行うことができる。
一方、内敵としては、政治団体や宗教団体が考えられる。
具体的には、日本共産党は「破壊活動防止法」に基づく調査対象団体である。
また、かつて、オウム真理教は、教団による武装蜂起、国家転覆を画策していた。
仮に、オウム真理教が外国のスパイと結びついていたら、とんでもないことになっていたであろう。今後もこのような宗教団体が出現するかもしれない。
以下、初めに、政府が間接侵略の定義を削除した理由について述べ、次に間接侵略の概要について述べ、最後にわが国における間接侵略の脅威について述べる。