「地球温暖化によって北極域の気温が上がると、偏西風が蛇行して、異常気象が増える」という言説がある。果たしてそれは本当なのか。この真偽について、大気科学の第一人者である、筑波大学計算科学研究センターの田中博教授に聞いた。
(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
北極域の気温上昇には2つの背景
杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹(以下、杉山):まず、北極域の気温が上がる理由ですが、これは地球温暖化かもしれないし、北極振動*1のような自然変動かもしれない、ということでよろしいでしょうか。
*1 北極域の気圧が平年より低いとき、日本などの中緯度帯で平年より高くなり、北極域で平年より高いとき、中緯度帯で平年より低くなる現象
田中博・筑波大学計算科学研究センター教授(以下、田中):はい、その通りです。北極域の気温が上がる背景には、温暖化でゆっくり起こる部分と、北極振動のような比較的短期間で起こる自然変動(内部変動)の2通りがあり、これらを分ける必要があります。
はじめに、温暖化の場合、「気温が上がると雪氷が溶ける、雪氷が溶けると気温が上昇する」というフィードバックがあるので、極域の方が地球全体よりも気温上昇は高くなります。これを「アイスアルベド・フィードバックによる北極温暖化増幅」といいます。