(羽田 真代:在韓ビジネスライター)
韓国には賃貸契約方法が2通りある。一つは日本と同じような「ウォルセ(家賃)」で、こちらは毎月決まった額を賃貸(大家)人に支払う。ただし、日本のような敷金や礼金はなく、入居時に保証金を賃貸人に納めればよい。
次に「チョンセ」だが、こちらは韓国独自の賃貸制度だ。
賃貸契約時に賃貸人へ保証金を払うことで、月々の家賃が不要になる。預けた保証金は退去時に満額返金されることになっており、賃貸人は賃貸契約期間にその保証金を銀行に預けて利子を得る。だから金に余裕のある人はアパート(日本で言うマンション)を購入するか、チョンセ契約で住居を得る人が多い。
家賃、チョンセ共に相場に合わせて変動するが、これまで下がることはごく稀だった。すなわち、韓国では物件の価値が低下するということがほとんどなかった。
そのため、賃貸契約は通常2年だが、更新の際には高確率で家賃あるいはチョンセの保証金額が上がる。これが支払えなければ、同じ家に住み続けたいと願っても賃借人は退去せざるを得ない。韓国人に引っ越しが多い理由の一つである。
しかし、近年は韓国も金利が下がってきている。また、若者を中心にまとまった金がない人も増えており、チョンセ物件は時代の変化と共に年々減少傾向にある。
「漢江の奇跡」と呼ばれる1960年後半の経済成長から今まで、韓国では不動産価格が上昇し続けてきた。「不動産価格が下がる時は韓国経済が崩壊する時だ」と言われていたほどだ。
だが、ここにきて韓国不動産の雲行きがあやしくなっている。
韓国不動産院が公表した資料「ソウルアパート週間チョンセ価格変動率推移」によると、2022年6月6日に0.00%だった変動率は7月4日には-0.02%になり、8月1日には-0.03%、8月29日には-0.09%と、この2カ月間で価格が下がった。
加えて、不動産ビッグデータ企業、アシルが出している資料「チョンセ物件が増えるソウル・アパート市場」では9月が3万5881件と、2022年で最も空き物件が多かった。空き物件が最も少なかったのは5月の2万6112件なので、ここ4カ月で約1万件のチョンセ物件が市場に出た格好だ。
ついでに述べておくと、「ソウルアパート週間売買需給指数の推移」を見ると、8月1日が84.6、8日が84.4、15日が83.7、22日が82.9(受給指数が基準線である100より低くなると、家を買う人より売る人の方が多い)と、物件を売る人の数が増加していることが分かる。
かつて国民の憧れであった首都圏は、もはやチョンセであっても、売買であっても、ひと昔前ほど需要がないということだ。