(舛添 要一:国際政治学者)
8月17日、東京地検特捜部は、東京オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会の高橋治之元理事を、紳士服大手の「AOKIホールディングス(HD)」側から5100万円の賄賂を受け取ったとして、受託収賄容疑で逮捕した。また、AOKIHD創業者の青木拡憲前会長、弟の青木宝久前副会長、同社の上田雄久専務執行役員を贈賄容疑で逮捕した。
総括なき東京五輪
組織委理事は、東京オリンピック・パラリンピック特別措置法で、「みなし公務員」と規定されており、職務に関して金品を受け取った場合には、刑法の収賄罪が適用される。青木前会長は、理事が「みなし公務員」とは知らなかったと述べている。
本件の真相解明は、今後の検察の捜査が待たれるところだが、この時点でも、今回の事件はオリンピックの商業化がもたらした結果であると断言できる。
五輪には多くの利権が絡む。そこにスポーツ・イベントを取り仕切るフィクサーのような人物が暗躍する余地がある。その第一人者が高橋である。私は、高橋とは面識はないが、その「威光」の噂は耳にしていた。
2014年2月から2016年6月までの都知事在任期間に、私は、東京オリンピック・パラリンピックの成功のために、大会の準備に邁進した。都知事の仕事の半分は、それに費やされたのである。それだけに、今回の贈収賄事件は残念であるが、「やはり出てきたか」という思いもある。
「TOKYO2020」は、新型コロナウイルスの流行のため、1年延期して開催された。それまでの間、様々な問題が噴出した。今年の6月、組織委員会は公式報告書を公刊したが、国民的レベルでの総括はまだ完了していない。何がレガシーで、何を次の時代に引き継ぐのかについても、国民的議論はなされていない。マスコミもその作業を怠っている。
組織委は公益財団法人なので、情報公開制度の対象ではない。したがって、検証のしようがないというのが実態である。外部監査の導入など、情報公開を徹底する仕組みを導入しないと、また同じ不祥事が起こる。巨額のカネが動く巨大イベントだからである。