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◎連載「河崎環の『令和の人』観察日記」記事一覧

(河崎 環:コラムニスト)

 事実はどうであれ精神的にはいつまでもお兄さんでいたい。そんな妖精おじさんたちが大好きな雑誌「東京カレンダー」には、「いい女とうまいメシを食って酒を飲んで、できればそれ以上に持ち込もう」(筆者の個人的見解です)、という至極健全な雑誌コンセプトの当然の帰結として正しく企画された「東カレデート」アプリがある。

「東カレ」に掲載されているような店に、「東カレ」に掲載されているような黒ドレスで色白でほどよい肉付きをした二の腕の綺麗な限界アラサー(プラマイ10歳)女子を連れて行き、「東カレ」に掲載されているようなメシと酒を奢る。その先はもちろん「東カレ」に匂わされているような夜の満足へなだれ込んでみたいと夢見るおじさんたちが、寿司や肉やフレンチで釣って内心キャッキャしながら女の子を物色する、男の側も女の側も嘘八百~嘘億千万のお食事マッチングアプリである。

港区至上主義「何がオクシブだ!」

 港区には、妙な磁場が生じる。港区は、経済敗戦後焼け野原だった東京都に最初に誕生したエクストリーム資本主義経済特区なので、お金は正義であり欲望はお金で買えますハイ、と福祉ナニソレ資本主義に同意署名した男女の東カレ民は、当たり前のように港区を舞台に選ぶ。

 何が「次はオクシブ(奥渋谷)」だ。ミナトクじゃなきゃそそられねぇよ、どんな普通の女の子でも港区の匂いがついてるからいいんだよ。顔が小さくて手足の細長い港区女子(そうじゃないと区境警察に入区をはじかれる)の方も、そんな自分たちにわかりやすい選民思想を抱く。

 グラハ(六本木の高級ホテル、グランドハイアット東京のこと)に連れていかれる回数で、港区女子スタンプラリー。スタンプ一杯になるとおまけでもう1回。相手がどんなオヤジでも一応勲章だし、社会経験だから踏んどく、みたいな。「普段飲んでるワインの値段で女の値段は決まる」ので、それも港区マイレージになる。

 そんなわかりやすく素直な(そしてたいへん申し上げにくいが少々古い)港区の信奉者たちが、男女問わず一番痩せていたときの一番いい写りの写真を、事実を過大気味に匂わせるプロフィール文とともにスマホからポチポチ登録する。写真加工アプリのように自分にフィルター効果をかける国語力も大事だし、年収や身長を足し算したり、肉付きを引き算したり、簡単な算数の能力も必要だ。